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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
後日談

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5月

 5月初旬、ゴールデンウィーク。いろいろ慌ただしかった4月を終えてようやく一息ついた頃。

 俺たちは家族で温泉旅行に行くことになった。

 行き先は去年翡翠と一緒に行った温泉旅館。

 父さんが光博おじさんに連絡して親戚の旅館への予約を取って貰った。


 翡翠たちと行ったときは電車だったが、今回は車で行くことになった。

 運転手が父さんで助手席が母さん、後ろにアリシアと優奈、そして間に挟まれて俺。

 道中の車内は窓の外を流れる風景に興奮するアリシアを、家族全員が暖かく見守るといった感じだった。

 実際に車の窓に張り付いて外の景色に釘付けになっている姿は見ていて大変微笑ましい。

 いままでは俺の脳内ではしゃいでいる声が聞こえていただけだったから。

 それがあまりに幸せすぎて。

 不意に夢じゃないか心配になった俺は、隣の手を握る。

 それに気づいたアリシアは、手をぎゅっと握り返してくれた。

 初夏の車の中、少し汗ばんだ小さい手。アリシアの存在を感じて安心する。

 車を降りるまで、手を繋いだままでいた。


 目的の旅館へはお昼前に到着した。

 まだチェックインするには時間が早かったので、車と荷物を預かって貰い温泉街を巡ることにする。


 まずは腹ごなしということでお昼ご飯を食べることにした。

 観光客向けの居酒屋兼料理屋といった雰囲気のお店に入る。今日は親がスポンサーなのでちょっと豪華な感じのお昼だ。

 俺は、地元の特産品をふんだんに使ってあるという定食を注文した。

 特別感動する程ではなかったが普通に美味しかった。

 ……中には無理矢理特産品を組み合わせていて1+1が1.2くらいになってる品もあったけど。

 他のメンバーも一人を除いて、同じような無難なメニューを頼んでいた。

 優奈は意外性重視で特産品を悪魔合体させたような物を注文していた。

 一口もらったけど、組み合わせずに食べた方が美味しいんじゃないかな、という感想だった。

 食べられなくはなかったけど……

 まあ、こういうのも旅の思い出になるからヨシ。あくまで優奈は前向きだった。


 お腹が落ち着いたところで、両親と別行動で散策することになった。


 まずは、3人で前回は乗らなかった人力車に乗った。

 珍しい観光地の景色を眺めながら人力車を引く人(俥夫というんだって)から、観光スポットや史跡の説明を受ける。

 人力車は思っていたよりも揺れなかった。

 異世界で乗った馬車は酷かったなぁ……と、アリシアと二人で顔を見合わせて苦笑いしてみたり。


 ぐるりと一周したら、スイーツタイム。

 問題は、初めての味に挑戦すべきか、前回食べて美味しかったやつにするかだけど……


「わたしは前と一緒のを食べたいです!」


 というアリシアの鶴の一声で、前回来たときに食べた特産品入りのソフトクリームを食べることになった。


「えへへ、美味しい……これを自分で味わえる日が来るなんて思いませんでした」


 五感を俺と同調していたアリシアは俺と同じように味を感じることができた。

 けど、やはり自分で食べるのとは違うのだろう。

 嬉しそうに味わうアリシアを見ていると、思わず視界が滲んでしまう。

 優奈も目元を擦っていた。


 それから、目的も無く商店街を散策する。

 去年は無かったアクセサリーショップを見つけて、二人で揃いのネックレスを買った。


「学校でつけられる物が欲しかったんです」


 今もそうだけど、俺たちは普段クリスマスプレゼントのツインリングをバラして着けている。

 けど、当たり前だけど目に見えるアクセは学校に着けていくのは無理だ。

 その点、ネックレスなら体育の無い日は制服の下に着けていてもバレないだろう。

 本当はこれも校則違反なのだけど、ちょっと後ろめたい事をアリシアと共有するのは悪い気分ではなかった。


 選んだのは水滴をモチーフにしたペンダントトップのついたシンプルなネックレス。

 購入したその場で身につけて、二人で見せ合った。それが、少し照れくさくて笑い合う。

 ニヤニヤ見ている優奈の視線も今は気にならない。


 それからも散策を続ける。

 商店街の終わりまで到達したら、今度は引き返しながら何をお土産に買おうか話し合う。

 ちょくちょくお土産を試食したり、木刀を手にとったりしながら、あれはどうかなこれはどうかなとわちゃわちゃ。

 知り合いにあげるお菓子の詰め合わせは、前に買って美味しかった物を。

 自分たちが食べるのには、まだ食べたことのない物を中心に。

 道中、今日の記念にカバンにつけるご当地キーホルダーを三人お揃いで買ったりもした。


 一通り商店街を堪能したら、時間もちょうど良い頃合いになっていた。

 両親と合流して、旅館に戻りチェックインする。

 旅館の部屋は両親たちとは別の部屋だった。

 前に翡翠と泊まったときよりは狭い部屋だったけど、部屋付きの露天風呂はあるし十分立派な部屋だ。


 優奈がお茶を入れてくれて、まずは一服。

 少し休んだら、家族みんなで大浴場に行くことになった。


 ……といっても、父さんだけは男湯になっちゃうんだけどね。


 こればかりはどうしようもない。

 凹凸の少ないこの体ならぎりぎり男湯に入れなくもないんじゃないかと一瞬考えたけど、口には出さなかった。

 全員から反対されそうだし、何よりアリシアの反応が怖かった。


「つまりイクトさんはわたしは男湯に入っても問題ないくらい成長していないとでもおっしゃりたいのですか?」


 と無表情で問い詰められるのを想像しただけで血の気が引いた。

 不用意な提案しなかった自分を褒めてあげたいと思う。


 しかし、母さんと一緒にお風呂というのはいつぶりだろう。

 最後は小学生の頃だったかな? 女目線になって母さんを見ると、結構な年齢の筈なのにプロポーションを保っていてすごい。

 優奈といい、うちの家系はスタイルが良いなぁ。

 なお、今の俺は母さんと血は繋がっていないので、同じような成長は見込めないだろう。

 まあ、女性らしい体つきとか特に求めてないからいいけどさ。

 柔らかさが恋しくなったときは優奈のを触らせて貰えるし。

 ……いや、アリシアの体つきが物足りないとか、そういう訳では決して。


 お風呂の中では、女四人で話が弾む。

 楽しかったけど、一人で入っている父さんの事が心の隅に引っかかっていた。


 お風呂から出て、浴衣姿でのんびりジュースを飲んで休憩。

 その後、ロビーにある卓球台で遊んだ。


 良い具合にお腹が空いたところで、夕飯の時間がくる。

 広間に行って家族全員でご飯をいただく。


 さすが旅館のご飯は豪勢だった。

 旬の物を中心に、素材の味を活かした料理。普段あまり食べない味わいを楽しむ。

 それでも、若者としてはやっぱり一番美味しかったのは肉。メインの和牛のステーキが最高だった。

 二切れしかなくて、欲を言えば、もっと食べたかったけど……味わうにはこれくらいで良かったのかもしれない。

 料理全体の量は十分以上で、食べきれずに少し残してしまったくらいだし。

 うーん、満足。


 食事が終わり、みんなで部屋に戻った後、俺は一人で父さんと母さんの部屋を訪れた。

 一人で訪れたのには理由がある。

 父さんと一緒に部屋付きの露天風呂に入りたかったからだ。


 お互い二度目の風呂なので、お互いさっとお湯をかけただけで岩の浴槽に入る。


「……気持ちいいな」


「うん……」


 ゆっくりとした時間が流れる。男同士の無言のコミュニケーション。

 こういう感じ懐かしいな。前はよくこうやって父さんと一緒にお風呂に入ってたっけ……


「父さんは変わらないね」


「……ん?」


「もうちょっと気まずくなるかなーとか思ってた。ほら、俺、女になっちゃったし」


「お前は俺の子供だからな。変わらんよ」


「そっかぁ……」


 随分と変わってしまった俺だけど、家族の絆は変わらなくて、それが嬉しかった。


「それに、その体つきじゃあなぁ」


「あはは……」


 俺は自分の体を見下ろして苦笑する。

 普通にセクハラだけど、父親としてそこは強く否定しておきたかったのだろう。

 それに、男同士の話としては、これくらい下世話なのは珍しくない。


「ところで、お前、将来はどうするつもりだ?」


 不意にそんなことを聞かれた。


「……わからない」


 それは、俺自身最近よく考えていることでもある。

 けど、答えは出なかった。自分が何をしたいのかイメージできないのだ。


「そっか……じゃあ、とりあえず大学行くか?」


「……したいこともわからないのに?」


「だからこそ学ぶんだよ。学ぶうちにその中からしたいことが見つかるかもしれない。そうでないかもしれない。とにかく、したいことが見つかったとき、それを目指せるように、いろんなことを学んでおくといいさ」


「でも、将来やりたいことは、勉強に関係無いことかもしれない。だったら、やってることは無駄にならない?」


「保険のようなものさ。金銭や時間を費やして、それで直接的な対価を得られなかったとしても、それが無駄という訳じゃない」


「……そうなのかな?」


「それに、学んだ経験が思いもよらないところで生きる事もある。学んだ事が無駄かどうかなんて死ぬときまでわからないものさ」


「……言われてみれば、異世界でも意外な知識が役に立ったりしたっけ」


「後、大学を卒業しておけば、大卒になって就職に有利だぞ?」


「就職……やっぱり就職が大事なんだよね……」


 仕事。俺も何かしらの仕事をするのだと思う。

 けど、今は何も想像できない。


「やりたい事が趣味とか芸術とかの場合、それで生活に必要なお金を稼げないこともある。そういう場合は、休日の多い企業に勤めて余剰の時間を趣味に費やすのが最適解になることもあるからな」


「なるほど……」


 その視点は無かった。


「そっか……やりたいことはお金稼ぐこととイコールじゃなくてもいいんだ」


「選択肢はなるべく多い方が良い。本命が成功したらそれに越したことはないけれど、それができるとも限らないからな。退路を断って事に当たるというやり方もあるけど、ダメだったら人生終了って訳にもいかないだろう?」


 異世界で魔王と対峙したときは勝つか負けるかに文字通り命を賭けていたけれど……

 もしかしら、今、俺が何をしたいのか見つけられていないのは、それを引きずっているのかもしれない。

 それほどまでに、異世界での一年は濃密で壮絶な経験だった。


「俺がやりたいこと……アリシアと一緒に生きたい、かなぁ」


「それで、いいんじゃないか? 二人で大学に通ってその間に将来のことを考えればいいさ」


「でも、それは……」


 ただでさえ、俺とアリシアの件でいろいろ負担を掛けているのに。

 優奈も含めて3人を大学に通わせるなんて大変すぎやしないだろうか。


「金のことなら気にするな。それくらいなんとかするさ」


「でも……」


「親が子供に何かするってのを遠慮する必要はねぇよ。もし、気になるならお前が親になったときに子供に返せばいい……っと、これは失言だったな。産む産まないは個人の自由だ。お前が好きに決めればいい」


 俺とアリシアとのことを思い出したのだろう。

 父さんはちょっと気まずそうに訂正する。


「あはは……」


 本当はアリシアの魔法でそこのところは、どうにかなるけど。

 子供を産むとか産んでもらうとか、そんなことは仕事をするよりも更に遠い話だったから、笑って誤魔化した。


「まあ、俺は親だからな。子供を育てる喜びを知ってるから、お前にもそれを勧めたくなっちまうんだ。無理強いするつもりはないし、今はまだ考える必要も無いだろう」


「ん……」


 今の俺は父さんと血は繋がっていない。

 父さんに血の繋がった孫を抱かせてあげられないことに気がついて、そのことを申し訳なく思ってしまう。

 親子であることに変わりはないけれど……


「なんにせよ、お前が幸せになればそれでいい。それが最高の親孝行だ」


「……ありがと、父さん」


 父さんと湯船で語り合っているうちに思ったより時間が経っていた。

 お風呂から出て部屋に戻ると、「遅い」と優奈に文句を言われた。


「それじゃあ、これからどうする?」


 と、優奈が聞いてきた。


「まだ寝るのはちょっと早いし、お風呂もさっきまで入ってたからなぁ……」


「では……そろそろ、始めますか?」


 とアリシア。


「始めるって何を……?」


「何をって……温泉旅行の夜ってそういうことするものじゃないんですか……?」


 そういうこと? ……ああ、そういうことか。

 アリシアにとっての温泉旅館の経験は、前回翡翠と一緒に行ったときのものしかないのだ。


「いや、そりゃ、二人きりの旅行ならそうするだろうけど……」


「……あたしもいるからね?」


 呆れたように言う優奈。

 そりゃそうだ。

 優奈が居るのにそういうことはできない。


 ――けど、


「あれ? 優奈も一緒にするんじゃないんですか……?」


 アリシアはそんなことを言った。


「し、しないよ!?」


 優奈はぶんぶんと首を振る。


「だって二人は恋人でしょ? ……あたしが間に入る余地なんてないじゃん」


 けれど、アリシアは不思議そうに首を傾けるばかりで。


「優奈はしたくはないのですか?」


「したい、したくじゃなくて……ダメじゃない?」


 優奈はしどろもどろに答える。


「なるほど、だからですか。最近優奈はアリスへのスキンシップが控えめだなーと思っていましたが……」


「……だって、アリスはアリシアの恋人だし。普通嫌でしょ?」


「わたしは優奈となら嫌じゃないですよ?」


 遠慮とかそういうのではなく、アリシアは素でそう言っていた。


「えー!?」


「だって、あれだけいろいろして貰った訳ですし……あれ? わたし何かおかしいですか?」


「うーん、どうだろう?」


 普通ってなんだ。

 過去を振り返って考えても、俺の経験の中に普通がこれっぽちも無くて困る。


「優奈が嫌なら、無理強いするつもりは勿論ありません……その、イクトさんも不快に思われたならすみません」


「いや、私はいいんだけど……」


 アリシアは困らせてしまったかな、と心配しているようだった。

 これ、どうしたらいいんだろ。


「ち……ちがうくて!」


 優奈から出た声の大きさに優奈自身がびっくりしているようだった。


「えっと……その……嫌じゃ、ない」


 最後の方は小声になっていた。


「アリスはどうですか?」


「私も嫌じゃない、けど……アリシアは抵抗があったりしないの?」


「はい。アリスと一緒のときに優奈さんとは触れ合っていましたし」


 なるほど。わかるようなわからないような……


「ちなみに翡翠とは……?」


「すっっっっごく、抵抗があります! 翡翠さんとするのは絶ぇぇっ対に嫌です!!」


「うーん……」


 アリシアと翡翠の相性の悪さはなんだろうな。

 まあ、それは置いておいて。


「じゃあ……しようか?」


「う、うん……」


 改めて宣言するのは何というか気恥ずかしい。


「ちなみに優奈は、入れるのに抵抗はありますか?」


「入れる……って、その、道具とか使ってるの? えっと、ちょっと抵抗はあるけど、興味もあるっていうか……その……」


「説明するより見て貰った方が早いですね。アリス、魔法を使って下さい」


「……わかった」


 俺はアリシアとするときに使っている魔法を詠唱する。

 浴衣の前の部分。股間に蘇る慣れ親しんだ感覚。


「……?」


 見た目は変わらない。

 不思議そうにする優奈を置いておいて、アリシアの手が俺の浴衣の前をはだけた。


「え!? それって……!?」


「魔法で作れるようになったんです」


 何故かどや顔のアリシア。


「え、えっ? えええええええ!?」


 えっと……俺が妹のはじめてを奪うの?


 それってどうなんだ……


 血の繋がりは無いし、妊娠する可能性もないからいいのか?


 ……いいのかな?


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