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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
第五章 Alicemagic

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デート(その2)

 駅までの道を三人で歩く。

 俺と優奈、そしてアリシア。


「ほんと、いい天気ねぇ」


 優奈の言葉に俺達は同意の言葉を返す。

 日差しは優しく、風も随分と柔らかい。

 ここ数日で空気は緩んで、すっかり春めいていた。


「ねぇ……私なんか変じゃないかな?」


 俺は二人に尋ねる。

 今日の俺は、いつにも増して道行く人の視線を集めている気がした。


「全然? 今日のアリスはとってもかわいいからね。そりゃあみんな見るわよ」


『そうですよ、自信持っていいと思いますよ!』


 二人の言葉を受けて俺は複雑な気分になる。

 この体になって他人の視線に晒される事には随分と慣れたつもりだ。

 だけど、デートの為に着飾った姿を注目されるというのは、なんだか気恥ずかして、くすぐったく思うのだ。


「あら、アリスと優奈じゃない」


 交差点で信号待ちをしていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。


「おはよう二人共」


 それは、クラスメイトである純と文佳だった。


「おはようアリス、今日はとても素敵ね。似合ってるわ」


「え!? ホントだ! 今日のアリスめちゃくちゃ気合い入ってる。めちゃくちゃかわいいっ!」


 純は俺の格好を見るなり目を輝かせて、だだだーっと駆け寄ってきた。


「あ、ありがと」


 純のテンションの高さに俺は若干引き気味で応える。


「それに比べて優奈は割りとカジュアルだね――ふふん、ボクが察するにアリスはこれからデートとみた!」


 猫のように丸くした目をらんらんと光らせて純は言った。

 ……するどい。


「そ、そうだけど……?」


「そんなにおめかしして、相手はやっぱりあの先輩なのかな? なのかな!?」


「あ、いや。それは……」


 何といえば良いのだろう。

 俺は別に勘違いされたままで支障は無いけれど、あんまり噂が広がって、蒼汰のことが好きという女性に勘違いさせてしまったら蒼汰に迷惑が掛かるだろう。


「蒼汰とは本当にそういうのじゃなくて……」


「だったら、いったい誰とデートなのかな?」


「そ、それは……」


 自分の中にいるもう一人の人格とデート――なんて言える筈もなく。


「ふふーん、照れなくてもいいって! ボクは応援してるよ! それで、どこに――」


「はいストップ。やりすぎよ純。アリスが困ってるじゃない」


「えー、でもでも、文佳だって気になるっしょー!」


「アリスにも話し辛い事だってあるんだから、そんなに根掘り葉掘り聞くものじゃないわ」


「えぇ、だってぇ……!」


「だったら、この前貴女が相談してきた山崎くんとの事、二人に洗いざらい話してしまってもいいのかしら……?」


 とたんに純の顔が真っ赤に染まる。


「ぜ、絶対にダメ!」


「ほほぅ、それは気になる話だねぇ」


 と、優奈は興味津々のようだ。

 山崎くんと純はクラス公認のラブラブカップルである。

 本人達は一応気を使っているらしく、クラスで表立っていちゃいちゃする事は無かった。

 授業の間の休み時間にもほとんど話もせずに、こっそりとメッセージをやり取りする姿を見るくらい。昼休みも半分くらいは友達と過ごしている。

 それでも、ふとした拍子に相手の姿を目で探してしまうようで、不意に視線が合うと互いに顔を赤くして顔を背けたりして、それがとても初々しく思えた。

 だけど、ここ最近は視線が合っても目で会話してから自然と逸らすようになっていて、二人の間に何かあったのではないかと噂になっていた。


「あ、いや……それは、その……」


「ほら、貴女にだって言えない事はあるのだから、アリスにだって強要してはダメよ」


「わかったよぉ……アリス、ごめんね」


「私は別に気にしてないから大丈夫」


「今日のアリスは本当にいい笑顔してたから。そんな顔をさせる相手がどんな人か気になっちゃって……それに最近のアリスはずっと悩んでる風だったし」


 後頭部を触りながら、純はばつが悪そうに言った。

 思えばクラスメイトにも随分と迷惑を掛けてしまっている。

 ここ最近の俺はアリシアの事で頭が一杯で、何を聞いても聞かれても話半分しか入ってこない状況が続いていた。


 周囲には生まれた国絡みの事情で悩んでいると伝えてはいるけれど、そんな状況がもう二ヶ月近くも続いていて、元気の無い俺の事を心配してくれる人は多かった。


 だけど、俺にはそんな気遣いに応える余裕すら無くて――今もクラスで邪険にされていないのは、優奈のフォローのおかげだと思う。

 そんな中でも、この二人は以前と変わらない態度のままで居てくれて――それが、とてもありがたかった。


「ごめんね、二人にも随分心配掛けちゃって……」


 二人共すぐさま気にしないでと返してくれる。


「その……詳しい事は言えないけど、デートの相手は私の本当に大切な人なんだ」


「うん、わかった。茶化すように聞いちゃってごめんなさい」


「もういいってば……今度、純と山崎くんとの話も聞かせてね?」


「う……話せる範囲で良かったら……」


 これはもう――しちゃってるのかな?

 いつかお泊まり会とかして、根掘り葉掘り聞かせて貰いたいところだ。


「それじゃあ、そろそろ私達は行くわね。これ以上足止めするのも悪いし」


 私達が交差点で立ち止まってから、もう何回も信号が変わっていた。


「といっても、ボク達はこれから図書館で宿題なんだけどね……」


 純が盛大にため息をつきながら言う。


「そんなに嫌なら帰ってもいいんだけど? 昨晩、私に泣きついて来たのは誰だったかしら」


「あー嘘嘘、ごめんなさい! 文佳が居ないと宿題が進まなくて困るのはボクだから。トショカン、オベンキョ、タノシミダナー!」


「……ったく。ほんと、騒々しくてごめんね」


「てへへ……アリスはボク達の分もデート楽しんできてね!」


「うん!」


 そのときアリシアにささやかなお願いをされた。

 俺は是非もなく了承する。


「それじゃあ、バイバイー!」


 二人が離れていく。

 そして――


『さようなら、お二人とも――お元気で』


 アリシアが念話で別れを告げた。

 それは彼女達が初めて交わす言葉でもある。

 二人はアリシアの事を知らない。

 だけど、例え俺達しかその事を知る人が居なくても、アリシアが俺と一緒にクラスの一員として過ごしてきたのは事実だった。


 二人は頭の中に聞こえてきた声に、少しだけ怪訝そうな顔をして。


「アリスも元気でねー!」


 と、純がぴょんぴょん跳ねて返事をしてくれた。

 多分、俺からの声が変な風に聞こえただけと思ったのだろう。

 文佳はそんな純の行動に恥ずかしそうにしながらも、俺達に会釈を返してくれた。


『……わたしの我儘を聞いていただきありがとうございました』


「こんなのお安い御用だよ」


 ……こんなことしか俺には出来ない。


 信号が青に変わって、俺達は駅に向けて再び歩き出した。

 優奈が中心に話を振って、どうという事のない話をしながら歩く。

 だけど、駅が近づくにつれて段々と口数が減っていって。

 駅前のロータリーにつく頃には無言になっていた。

 そのまま駅に入り切符を買って、とうとう改札の前までやって来た。


「電車が来るまで5分くらいね」


 時刻表を確認して優奈が言う。

 それはつまりアリシアと優奈との間に残されたタイムリミットでもある。


『ユウナ、今までありがとうございました。わたし毎日が本当に楽しかったです』


「アリシア……あたしも楽しかった。本当の妹が出来たみたいに――ううん、あたしアリシアの事を本当の妹だって思ってる」


『ありがとうございますユウナ。ただ、その……わたしの方がお姉さんなのですけどね?』


「そういえば、そうだったね……すっかり忘れてた」


 ったく、優奈のやつ……

 俺が兄だって事も忘れてたりしてないよね……?


『教会で生まれ育ったわたしには、本当の家族っていうのがどんなものか知りませんでした』


 淡々と言葉を紡いでいくアリシア。


『……だけど、お母様、お父様、そしてユウナにイクトさんの家族として迎え入れて貰って。今では、それがどんな感じなのか少しだけわかった気がします』


「っ――アリシア!」


 感極まった優奈が、ぎゅっと俺を抱きしめてきた。

 いつものように胸元に包み込む抱き方じゃなくて、少し屈んで肩を抱くような抱き方なのは、私が化粧をしているからなのだろう。

 首元からふわっと香るいい匂いは、家を出る前に一緒につけた柑橘系のオーデコロンのもの。


 俺達が抱き合っている光景に周囲を行き交う人達が視線を向けてくるけど、それが駅で見られる日常光景であると理解すると、それ以上見ないようにそっと視線を外していく。


 そのまま、俺達は何も話せなかった。

 何かを口にしたら、いろんなものがそのまま零れ落ちてしまいそうだったから。

 だけど、ずっとそうしている事は出来なくて……

 電車の到来を告げるアナウンスがその終わりの刻を俺達に知らせた。


「優奈……」


 俺のつぶやきを切っ掛けにして、優奈が数歩後ろに下がって俺達から離れる。


「いっぱい、いっぱい、楽しんで来てね」


『――はいっ!』「うん!」


 俺達は力一杯返事した。

 優奈に背を向けて、改札に向けて歩く。

 改札の人に切符を渡して切って貰う。


 駅の構内に入ってから振り返る。

 俺が振り返るのを見た優奈の表情が一瞬曇った。


「――っ」


 だけど、優奈は歯を食いしばって言葉を飲み込んで。

 精いっぱいの笑顔になって俺達に向き直った。

 キラキラと舞う光。


「いってらっしゃい!」


 電車のブレーキが立てる金属音がけたたましく響く中でも、優奈の声ははっきりと聞きとれた。

 プシューと音を立ててドアが開いて、場内アナウンスが流れる。


「『――いってきます』」


 言うが早いか再び背を向けて。

 俺達は電車に乗り込んだ。

 発車を告げるベルがジリジリと鳴って、やがてドアが閉じた。


 そして、俺達のデートが始まる。

 これから待っているのは楽しい事ばかり。


 ――だからまだ、こぼれないで涙。

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