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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
第五章 Alicemagic

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バレンタインとアリスの覚悟

二月十三日(月)


「明日はバレンタインデーですね!」


 アリシアにそう言われてその存在を俺は思い出した。

 正直、アリシアを救う手段を探すことで手一杯で、それどころでは無かった。

 だけど、


「創作物で定番の日を是非経験してみたいです!」

 

 というアリシアの希望は尊重したいと思い、俺は初めてあげる側になったバレンタインデーを体験する事となった。

 なお、本来であれば明日のバレンタインデーはお休みの日になるアリシアだったが、今日と明日二日連続で同調し、その代わりに15日・16日を続けてお休みにする事で帳尻を合わせる事になった。


 今日はバレンタイン前日と言う事で、蒼汰を除いた部活の面々で放課後に街中に出かけてチョコレートを買いに行く事になった。

 と言っても、本命チョコを渡す相手なんて居ないので、俺が買ったのは義理チョコばかりではあったけど。

 父さん、蒼汰、山崎くん、音成くん、後はクラスの男子達みんなに気持ちだけ。


「わざわざクラスの男子全員に配る必要なんてないのに」


 と呆れ顔で優奈は言った。だけど、元貰う側だった経験から、一個30円の義理オブ義理チョコでも、全く貰えないよりはマシだろうって思ったから。

 少なくとも、貰えた個数には計上できる訳だし……


 そして、買い物した中にはチョコケーキの材料もあった。


「わたくし、この後家でチョコケーキを作るつもりですの。よろしければ皆さんもご一緒に如何ですか?」


 という涼花の提案に乗って、みんなで涼花のマンションに行ってケーキ作りをする事になったからだ。

 執事の安藤さんは用事で外出しているらしくて、アリシアも含めたみんなでわいわいとケーキを作った。

 生まれて初めて作ったチョコケーキは、我ながらなかなか上手にできたと思う。甘くて美味しいとアリシアにもとても好評だった。

 作ったチョコケーキは俺が母さんに、そして翡翠が光博おじさんに持ち帰ったくらいで、後は自分達で食べた。

 父さんは海外なので、俺達が他にチョコケーキをあげるような相手なんて他に蒼汰くらいしかいなくて。

 だけど、蒼汰には涼花が明日に本命のチョコケーキを渡すという暗黙の了解があったので。

 蒼汰から良い返事を貰えるといいね、と涼花に言うと彼女は曖昧に微笑んで、そうだといいのですが……と複雑そうに応えた。


二月十四日(火)


 バレンタインデー当日。

 クラスの男子達に義理チョコを手渡していくと、大げさに喜ばれて、なんだか逆に申し訳ない気持ちになった。

 それから、何故かクラスメイトの女子複数からチョコを貰った……ええと、友チョコってやつだっけ?

 男だった頃よりも貰った数が多いのは複雑な気分だ。


「男子も女子もそわそわしているこの雰囲気。とてもいいですね!」


 例年バレンタインにイベントなんて無かった為、俺自身正直そこまでこの日に思い入れは無い。

 だけど、創作物によって期待が高まったアリシアから見た生徒達はとても輝いて見えるようだった。

 そんなアリシアの事を思うと、不意に胸がきゅっと締め付けられるような思いが込み上げてきて、それを悟られないように俺はアリシアと一緒にテンションを上げて誤魔化した。

 誰が誰にチョコをあげたとか貰ったとか、告白が成功したとか振られたとか、普段から恋愛話が好きな女子達の話題は今日は事欠かない。正直興味は無かったが、俺は女子達に話を合わせてはしゃいでおいた。

 一日中そんなテンションで過ごして、チョコもいっぱい食べて少し胸焼けしそうな程だった。

 まあ、アリシアは満喫したみたいだったから良かった。


二月十五日(水)


 エイモックに会うためにどうすれば良いか。

 俺が思い出したのは、以前俺を襲ってきた鳳という二年生の事だった。

 だが、鳳を訪ねて二年の教室に行ってみたところ、彼は去年の暮れから学校に来ていないとの事だった。

 あまり良い評判の生徒では無かったようで、彼と関わるのはやめておいた方が良いと、鳳の事を教えてくれた女子は俺に忠告してくれた。


 そして、いきなり手詰まりとなってしまう。

 他に俺を襲ってきた不良達は居たけれど、何処の誰だかいちいち覚えていなかった。


 不良、不良かぁ……そうだ!


「……それで、俺の事が思い浮かんだってか?」


 年の始めからメッセージのやり取りをするようになった音成くんは、突然放課後の屋上に呼び出された理由を聞いてげんなりとしていた。


「ごめんごめん。音成くんってなんとなく顔が広そうだし、そっち方面の面識もあるかなって思ったんだ……それで、エイモックって人がどこにいるか知ってたりしないかな?」


「俺は知らない。知ってるかもしれない奴に心当たりが無い訳じゃないが……」


 音成くんは、あまり気乗りしない様子だった。

 積極的に連絡を取りたくない相手なのかもしれない。

 不良グループと関わって良い事なんて無いだろうし……


「エイモックっていうとウロボロスの元リーダーだよな。それを聞いてお前はどうするつもりなんだ?」


 確かに普通の女子高生が用事のある相手では無い。

 音成くんの疑問は尤もだ。


「内容は言えないけど、どうしても彼に確かめないといけない事があるんだ。お願い、この礼は必ず返すから……」


 俺は両手を合わせて頭を深く下げて音成くんに頼み込む。

 音成くんはやがてため息をついて言った。


「ったく、わーったよ……少し時間をくれ。けど、わかるかどうか確証なんてないからな?」


「ありがとう、音成くん!」


 そして、その日の夜に音成くんからメッセージが入った。

 そこには音成くんが知人から聞き出したという街中の住所があった。ここでエイモックらしき男を見た人がいるらしい。

 音成くん、超有能。

 もし俺が巨乳だったなら、お礼にセクシーな自撮写メを送ってあげたいくらいだ。

 残念ながら俺は彼が求める物を持っていなかったけど……お礼は今度別の物を用意しよう、うん。


 スマホで調べてみるとそこはお姉さんと密着してお酒を飲むお店のようで、絶対に一人では行かないようにと音成くんに念押しされていた。


二月十六日(木)


 翌日の放課後、俺は音成くんに教えて貰った場所に一人で来ていた。

 一人で行くなという彼の忠告を無視した形となる。

 それだけじゃなくて、俺はここに来る事をアリシアを含めて誰にも相談していなかった。危険な事に巻き込みたく無かったし、これから俺がしようとしている事を知られたら、多分反対されると思ったからだ。


 エイモックがアリシアを救う手段を知っているというなら、俺はどんな事をしてでも、それを教えて貰うつもりでいた。

 だけど、エイモックとの関係は薄いどころか、敵対していた分マイナスに振り切れていて、何かをして貰えるような義理なんてまるでなかった。

 また、対価を払うにしても俺ができる事なんてたかが知れている。交渉のカードになりそうなものなんて、ほとんど思いつかない。

 ……ただひとつ、以前求められた俺の体以外には。

 最悪、エロ漫画のような展開になる事も考えられた。

 だけど……例えそうなったとしても、それでアリシアが助かるのなら俺は受け入れるつもりでいた。

 アリシアの体が他人に犯される事に対する忌避感はあった。だけど、今はもうこの体は俺の体っていう意識が強くなっていて、その忌避感は以前程ではなかった。

 そして、俺自身の感情は、アリシアを助けるという目的の前には考慮に値しない。

 だから、他の全員に反対されたとしても、俺はそう覚悟を決めていた。


 いかがわしいお店の前をうろうろしているのを誰かに見られたらまずい。

 そう思った俺は、一瞬だけ躊躇ってから、そそくさと雑居ビルに入った。そして、入り口から影になったところにあるエレベータに乗り込む。

 スマホでお店の名前を確認し、四階のボタンを押した。

 音を立ててエレベータが上昇して、ドアが開く。

 俺の目の前には、黒ベースの内装に間接照明で照らされた狭い入口が飛び込んで来た。

 俺は恐る恐る足を踏み出すと、エレベータのドアが自動的に閉まった。

 これまた黒塗りの鉄の重厚なドアが目の前に立ち塞がっている。

 俺は意を決してドアノブを回して引く。

 ぎぃぃ、と音を立ててドアが開き、俺は店内に体を覗き込ませた。


「ごめんくださーい」


 店内は薄暗い。


「……だぁれ?」


 店の奥から、気だるそうな女性の声がして、直後に胸を強調したセクシーな光沢のある紫のドレスを来たお姉さんがお店の奥から姿を現した。


「……悪いけど、うちは18歳未満は雇って無いの」


 制服姿の俺を見て開口一番そんな事を言う。


「ち、違います! そういうのじゃなくて……え、エイモックさんはこちらにいらっしゃいますでしょうか!?」


 女性は不審そうにしげしげと俺を見てくる。

 指を口元にあてる仕草ひとつがとても色気があって、何もかも見透かしてくるような視線に俺はどぎまぎする。


「……貴女、エイモックの女?」


「い、いえ……そういうんじゃないですけど……」


「ふうん……まあ、いいわ。いらっしゃい」


 それだけ言うと、お姉さんは振り返って店の奥に戻っていく。


「お、お邪魔します……」


 俺は慌てて後を追った。

 当たり前だけど、こういう店に入ったのは初めてである。

 狭い入り口に対して思ったよりも店内は広かった。やっぱり間接照明に照らされた店内は黒をベースに赤いカーテンや金の飾りの高級感がある落ち着いた内装だった。

 だけど、店の奥にある大きなテレビから流れている時代劇が、雰囲気を台無しにしてしまっている。


「エイモック、貴方にお客さんよ」


 女性がテレビの前に背を向けて並んでいるソファーに声を掛けたどうやらその男はソファーに横になっているようだった。


「どうせまたグループの頭として我に再起して欲しいとかだろう? ……我はもうそういうのはやらぬ。取り次ぎは不要だ」


「違うわ、かわいい女の子よ。貴方何処かで餌付けでもしたの?」


 人を捨て猫か何かみたいに言うのはやめて欲しい。


「女……? なんだ、誰かと思えば水の巫女ではないか」


 ソファーから起き上がった金髪の男は俺の姿を確認して言う。


「……ども」


「知り合い?」


「ああ、以前ちょっとな……正直、もう二度と会う事は無いだろうと思っていたのだが……」


「お前に教えて欲しい事があって来たんだ」


 俺の言葉にその男は怪訝そうな表情をする。


「……お前が? 我に?」


 ――そして、俺はエイモックと再会した。

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