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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
第五章 Alicemagic

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調査レポート

二月十二日(日)


 アリシアが戻ってきて誕生日パーティをした翌日。

 二日に一日同調を切らなければいけなくなったアリシアは今日はお休みする日になる。

 日曜日の今日は一日アリシアの為に使う事ができる。本当は学校を休学してでも、アリシアを助けることに専念したかったが、それはアリシアと母さんに却下された。


『わたしの為に行動してくれる事は嬉しいです。だけど、その為にイクトさんの日常を壊して欲しくはありません』


「私達家族が協力して調査しているから日中は私に任せてアリスは学生としての義務を果たしなさい」


 二人にそう言われて、俺は一旦引き下がった。

 学校を休んで何ができるのか、具体的なプランも無かったからだ。


「アリシアを助ける手掛かりを見つけたら言いなさい。そのときは学校を休んで調べに行くのに反対はしないわ。私も可能な限り協力するから」


 だから、兎にも角にも手掛かりを見つけなければならない。


 アリシアの魂が失われる事を知っていた俺の家族は、以前からアリシアを救う手段を探していた。その成果を纏めてレポートを、俺は一昨日の夜に受け取っていた。


 レポートでは本当に様々な可能性を検討していて、父さん達がどれだけアリシアの為に動いてくれていたのか思い知らされた。

 レポートを一通り目を通して、俺は直ぐに父さんに電話して謝罪した。


「父さんレポート読んだよ……その、ごめん。俺、父さんの気も知らないで酷い事言った……」


「気にしなくていいさ。俺達がお前に隠し事をしていたのは事実だ。レポートにしても、アリシアを助ける手段は見つけられず、現状の確認がほとんどだしな……異世界で経験を積んだお前なら何か見つけられるかもしれない。期待してるぞ、息子よ」


「……おう」


「協力を惜しむつもりはない。俺達は家族だ、出来る事があったら何でも言ってくれ」


「ありがとう、父さん」


 今日はもう一度レポートを読み直して、状況を整理する事から始めるとしよう。


 事の始まりは、異世界からこの世界に戻る際にアリシアの体に俺の魂が転移した事だ。

 一つの体に二つの魂がある状態は普通はあり得ない。

 俺の魂がこの体に馴染んでいくにつれてアリシアの魂が失われてしまうという事は、アリシアは直ぐに理解できたらしい。


「アリシアは最初『自分は渡り鳥みたいなものだから、一時的にここにお邪魔させていただく事を許してください』なんて事を言ってたの」


 それは、一昨日の夜に優奈から聞いた話だった。

 当時の俺は、自宅に帰ってきて家族と再会出来た安心感が大きくて、体が変わってもアリシアと一緒なら何とかなるだろうと気楽に考えていた。

 それに対してアリシアはそんな悲壮な覚悟を決めていたと知って、俺は胸が締め付けられる思いだった。


「最初はね、アリシアの事はお兄ちゃんを救ってくれた恩人っていう意識が強かったわ。だけど、一緒に暮らしていくうちにアリシアはアリスと一緒で手の掛かる妹――家族だって思うようになっていったの」


 俺もひっくるめて妹扱いされているのはどうかとは思うが、優奈がアリシアを家族だと言ってくれるのは嬉しかった。


「だから、あたしは絶対にアリシアを助けたい。これからは、アリスも一緒に頑張ろうね!」


 作成されたレポートにはファンタジーへの造詣が深い優奈が協力したであろう箇所も多かった。特に魔法に関してアリシアへの聞き取りは主に優奈が行っていたようだ。


 そして、魂については大体が翡翠からの受け売りだった。


「魂は体から常にエネルギーの供給を受けているわ。そして、人が死ぬとエネルギーの供給を受けられなくなった魂は消滅してしまう。だから、人が死んで魂だけ残る人魂というのは存在しないの」


 昨日の夜パーティの前に聞いたら、翡翠はそう説明してくれた。


「アリシアの魂は体との接続が細くなってきている。だから、体から供給されるエネルギーが少なくなって、同調できる時間が短くなっているの」


「それじゃあ、別の方法でエネルギーを供給できるようになればアリシアと今まで通りに暮らせるようになる?」


「……それは難しいわね。アリシアの問題はエネルギーの不足だけじゃないから。アリシアの魂は、存在自体が希薄になってきているの。エネルギーを確保できたとしても、このままだと消滅してしまうのは変わらないわ」


 アリシアの体に二つの魂が同居しつづける事は不可能という事だった。アリシアを救うには別の体に魂を移さなければいけない。


 その点についても、父さんは色々と検討していた。


 まず、人形やぬいぐるみやアンドロイド等の無機物に魂を移せないか検討したが、現実的では無いとされていた。最低限、五感に相当する機能が無ければ人として生きるのに支障が出る可能性は高いだろうという事だ。


 また、遺伝子から作成するクローンは、技術的な問題に加えて倫理的な問題もあり、未だ人の体を複製するには至っていない。

 これに関しては父さんは色々手を尽くして調べたようだったが、非合法組織と関わる事に加えて、異世界の魔法使いであるアリシアの遺伝子を提供するのはリスクが高すぎるとして、選択肢から外した方がよいだろうと判断していた。


 似たような物に人造人間ホムンクルスがある。こちらも、クローン同様の問題とリスクがあった。こちらは異世界においても研究されていたようで、人造人間の作成を試みた魔法使いは過去に複数居たらしいが、成功したという話は聞いた事が無いとアリシアが言っていた。


 そして、比較的実現性の高いとされていたのが、既にある他人の体を使うという選択肢だった。

 ただ、それには誰かを犠牲にする必要があり、確実に非合法の領域に踏み込まなければいけなかった。

 それに加えてその体は魂が無い物でなければならない。

 魂のある肉体にアリシアの魂を移したとしても、体との結びつきが弱いアリシアの魂は消滅してしまうだろうと考えられたからだ。

 だけど、それもまた難しい事だった。

  魂は胎児の心拍が始まる頃に宿り、人が死を迎えた後に消滅する。つまり、魂の無い体というのはあり得ないのだ。

 脳死と言われる状況でも魂は体の内にあって失われている訳では無いという事は翡翠によって確認は済んでいるらしい。

 だけど、魂を抜く事を考慮しなければ、体自体の確保は何とかできそうだとレポートにはあった。具体的な手段について触れて居ないのが怖いところではあるが、取り敢えずそこは気にしないでおこう。


 だけど、代替の体を用意出来たとしても、それで解決という訳じゃない。

 俺の中にある魂を移す手段が必要となる。

 これについては現状は何も手掛かりがなかった。

 優奈がネットや図書館でいろいろ調べているようだが、殆どが怪しいオカルトで信頼性のある情報は見つかっていない。

 怪しげなオカルトじみたネット上の情報をひとつづつ検証していく作業はまるで砂漠で砂金を探しているかのようでうんざりすると、優奈が愚痴をこぼしていた。

 翡翠も神社関係を当たってくれているようだったが、こちらもめぼしい情報は見つかっていなかった。

 そして、魔法にも魂を扱うものは存在していないとアリシアは言った。


 魂を体から出し入れする方法が見つからない事にはどうしようもない。

 だけど、それさえ見つけられれば、なんとかなるかもしれない。

 レポートは、そう結論付けられていた。


「魂か……」


 現代日本で魂をどうこうする手段なんてどうやって探せばいいのだろうか。家族が既に挑んでいる山の険しさを呆然と見上げるばかりと言うのが正直なところだった。

 だけど、俺にはひとりだけ、そういうのに詳しそうなやつに心当たりがあった。

 闇の神官であるエイモック。奴ならアリシアの知らない魔法も知っている可能性がある。

 リスクはあるけれど、会って話してみる価値は十分にあると思われた。


 ……だけど、奴に会うのはどうすればいいんだろうか?


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