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竜姫伝(タイトル仮)  作者: さまー
第2章 エルド町編
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9.帰郷

 エルド商会によって小さな町だったエルド町は栄えはじめようとしていた。初代商会長のゴンザ=エリルドは、レオナルドの恩人で、一代で商会を大きくした経営敏腕である。筋骨隆々で巨躯の持ち主である。


「ゴンザさん、只今戻りました。コラルド王国との交易、済ませてきましたよ」

「おー、レオナルドぉ……。よく戻ったな。それにしても予定より少し戻ってくるのが遅いんじゃねえのか?」


顎ひげをさすりながらレオナルドを見るゴンザ。レオナルドはバツの悪い顔をしてリクとエリの方を見る。『説明してくれ』と目が訴えている。


「あはは、実は、俺達が原因なんですよ……」

「はい、エロナルド巻き込んじゃったので……」

「ちょっと待ってエロナルドって誰だよ! 僕はレオナルド! さっきはちゃんと言えてたじゃないかエリさんよぉ……」


エリの言葉にすかさずツッコミを入れたレオナルド。ゴンザは笑いながらも不審そうにエリを見る。


「お嬢ちゃん、もしかして……エリって……」

「はい! これでも、コラルド王国第一皇女、エリ=コラルです」


真っ白なドレスを来た腰に手を当て、自慢げに口角を上げるエリ。相変わらず左目は前髪で隠れている。ゴンザは驚いた。


「ほぉ……それでこっちの男は?」

「あ、俺はリク=エルバード。レオさんのボディーガードやらせてもらってました」


リクが笑顔で答えると、ゴンザはまたまた唸るようにリクを見る。


「レオナルド、お前やるな……ここまでの人間を……どうやって仲間に引き入れた?」

「やっぱり会長にはリクの凄さがわかるんですね」

「んー、長年人と付き合う関係をしていると、嫌でもそんな力はつく。リクと言ったかな。君は面白い男になるだろう。まあまだガキだから何とも言えねえがな」


面白いの意味がイマイチよくわからなかったリクだが、エリは似たようなことを自身の執事であるエリシュマンも言っていたような記憶がある。


 帰ってきたレオナルドを見つけてか、商会の者たちが、続々とやってくる。


「よおレオナルド!」

「元気してたか!?」


レオナルドが帰ってきたことに喜んでいるようだ。1週間しか離れていなかったのにも関わらず……。


「おう、みんな! 一週間の間になんか面白いことあった?」

「そ、それがだな……」


仲間のひとりがこっそりと指を商会の建物の壁際を指差す。そこに座るひとりの少年。ウルフカットの長髪で、真っ白なジャケットのパンツを着こなしている。

 彼はこちらを一瞥すると、鋭い目を向け、また目を逸らした。レオナルドが抱いたのは恐怖心だ。


「あ、あの人こええよ……名前何ていうの?」

「……シャオ=シャルランだっけ……? 何にせよ会長としか話してるとこみたことないからわかんねーよ」

「記憶失ってるらしいぜ」

「……そっか、記憶を……」


悲しい事実だが、こればかりは他人の庭であるため土足で入っていくわけには行かない。干渉をぐっとこらえ、レオナルドはシャオに向けた視線を別の方向へと向けた。


 「よっ! 俺はリク=エルバード。君は?」


リクはその頃、壁にもたれかかるシャオに話しかけていた。


「俺は……シャオ=シャルラン」


シャオは力なく答えた。左目瞼に縦に一本傷が入っている。リクの輝く目を見ながら溜息をついた。


「リクだっけ……。君は幸せそうだね……」

「そりゃあね……シャオは違うの?」

「幸せも何も記憶をなくしてたら、楽しい思い出なんざ一つも残ってないんだ」


青空を眺めながら更に大きなため息をついた。太陽を雲がかくして少し暗くなる。


「しかもさ……両親が『ナキ男』っていう魔人に殺されたっていう記憶だけが残ってるんだ」

「……魔人……ナキ男?」


 リクの目の色が途端に変わった。この少年、シャオ=シャルランも混沌の時代の被害者だ。


「シャオ……その魔人どこにいるのかわかる?」

「俺が記憶をなくしてこの町で倒れていたところをゴンザさんに助けられた。多分ここから少し北の方に行けば魔の山っていうところがあるからそこにいるのかもしれない」

「……そうか…」


 記憶を失っているというのが何とも厄介だが、この周囲にいるのかも知れないのであれば、この町に詳しい人に聞くのが早い。リクはすぐさまゴンザの元へ向かった。


「……ゴンザさん」


リクは外で小さなコンテナを運ぶゴンザ=エリルド商会長に話しかけた。


「おう、さっきのボディーガード、どうした?」

「シャオくんのことについてお伺いしたいことが……」


リクは尋ねた。どのようにしてシャオを見つけたのか、彼がどういう人物なのか、ナキ男という魔人が何者でどこにいるのか……。その問いに、ゴンザは逐一丁寧に答えていく。


「ちょっと採集の際に北の畑に向かっていたら倒れてるシャオを見つけたんだがな。まあ話しかけでもしない限り一切喋らねえぞあいつは。まあ悪い奴じゃないんだがな。あと、あいつは雷属性の魔法使いだ」

「魔法使い?」


聞きなれないキーワードに、頭にクエスチョンマークを浮かべるリク。

 魔法使いとは、魔獣、魔人並みに魔力が使える人間のことで、火、水、雷、木の4つの主属性、毒、闇、氷、癒、鋼、光、土、風の8つの副属性、時、空の2つの特殊属性という14の属性の魔法がある。魔法使いは、これらの中でも得意不得意は様々であるが、一般的に一番得意な魔術の名前を用いて〇〇魔術使いと呼ばれる。魔獣や魔人も同様の属性の魔術が使えるのだ。


「つまり、シャオくんは記憶を失った雷魔術師で、ナキ男への復讐を目指してとりあえずここを拠点に動いているという状態ですか?」


リクがゴンザから聞いた話をまとめた。


「とは言っても、見つけてから2日しか経ってねえからお互いに何もできちゃいねえよ」


大胆に笑い声を上げるゴンザ。豪快な男だ。


「ああ、あとナキ男って魔人は相当強い。こないだも魔獣討伐隊の小隊さんがやられたそうだ。シャオから聞かなかったか? 北の魔の山にいるって。まああそこにはエルドの守り神もいるから簡単に手出しできねえんだがな」

「……そうですか」



 その日の夜、エルド商会の宿屋に休むことにしたリクとエリ。リクはこっそり自分の部屋を抜け出してエリの部屋の扉をノックする。


「なによこんな夜遅くに……」


エリは眠そうに目をこすっている。リクの目を嫌そうに見ながら悪態をついていた。


「いやさ……実は、この先の旅路について少し相談があってね」


リクの笑顔と次の旅路への期待からか、エリは眠気が不思議と飛んでいった。

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