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竜姫伝(タイトル仮)  作者: さまー
第一章 コラルド王国編
6/10

6.戦闘開始

 皇女の部屋に飾られる一枚の写真――皇女、エリ=コラルが3ヶ月より少し前に撮った、家族―元国王陛下との最後の写真である。満面の笑みを浮かべる両親と、その間で恥ずかしそうに照れながら前髪を触る少女、エリの姿が映っていた。その写真を呆然と眺める第一皇女、エリ。本日16歳の誕生日を迎えた。


 ――彼女は、家族が大好きで仕方なかった。毎日のように王室に出向いては、職務の間隔にあった国王の元に遊びに行き、執事らに咎めながらもいうことを聞かず、一心不乱に遊び回る…そんなわんぱく少女だったのだ。10歳のときにエリシュマンという執事が来てからは、剣術や弓の稽古に勤しむようになり、子供のように遊ぶ機会は減ったものの、それでも、家族三人でいる時間が楽しくて仕方なかった。稽古の内容を眩しい笑顔で話す彼女に、両親は我が子の成長を垣間見て優しく微笑むのだった。だから、稽古は大好きだったし、剣術もかなりうまくなっていった。執事のエリシュマンは厳しいが、自分のことを大切にしてくれているのがわかる…だから少しわがままを言って困らせたくもなるが、大好きで仕方なかった。


 ところが、竜姫という魔物が復活してから、楽しい日々は変わった。竜姫に操られた魔獣や魔人が王国の近辺に頻繁に出現し、旅の道途にあった者たちを襲撃したり、竜姫の操る魔獣によって遠くの家族を失った訃報を聞くものも現れたり、交易が上手くいかなかったりと、様々な弊害が頻発したのだった。国王陛下は内政の悪化に悩んで自殺した。国王のシを惜しみつつ、新たな政治に賭けた。そして、当時敏腕外務官だったダビス=デイマンという男が代わりに暫定王座に座ることとなった―という経緯があるが、実はこれは嘘が混ざっている。自殺されたとされていた国王陛下はダビス=デイマンによって殺害された、他殺による死亡だったのだ。

 それを唯一目撃した人物がいた。何を隠そう、国王陛下の一人娘で、ダビスの許嫁で、第一皇女のエリ=コラルだった。その殺害事件は、彼女にダビスへの恐怖と、大好きな家族を奪われたという喪失感と悲しみと、王室に一人で過ごさなくてはならない孤独と絶望があった。逃げ出すことも考えたエリだったが、正統王家が自分しかいない以上、抜け出せば国民たちは混乱するだろう。それだけが、彼女を王室に繋ぎ留める理由となっていた。鬱憤を晴らすかのように擬似脱走をしては、その日のうちに戻ってくる。そんな日々が続いた。


 今日、またコラルド王国史の一ページが刻まれる。それが、良い歴史となるのか、悪い歴史となるのか、それは戦う覚悟を決めた彼女にもわからなかった。



 「ダビス様、皇女の側近二名の殺害に成功いたしました」


ダビス=デイマンは、普段よりも一段と良いタキシードを羽織り、結婚式の準備を進めていた。側近のグレイスから朗報を聞くと、嬉しそうに懐中時計を眺めた。


「いよいよだ……いよいよ俺の時代がやってくる……姫様の正式な婿となり、この国を掌握し、姫様に跡取りを孕ませ、その子供を次代の国王にし、姫様を殺せば全てが完璧に終わる」


下衆のような笑みを浮かべるダビス。結婚式の開始は午前10時。あと二時間だ。


 朝日がまた東から登っている。あれから一日、戦いに備えて万全の準備をしてきたリク=エルバードとレオナルド=ハイラルは、姫の結婚式に向けて、城へと向かっていた。


「いよいよ今日だね……結婚式」

「そうだね……うまくやれるかなあ」


街の人々も皇女の結婚式に備えてパーティの準備をしている。そして、ダビス=デイマンの正式な王位継承の瞬間も、少なからず心待ちにしているのだろう。街を彩る飾り付けに、リクらも心躍りそうになるが、今はそんな場合ではない。


「これから楽しいことが待ってる……ってわけじゃないのがなんとも辛いな」


レオナルドも苦笑いしながら震える右手を抑え、城門の前まで来た。大きくそびえ立つ城は、朝日に照らされて真っ白な城壁が反射し、自分たちの目に飛び込んでくる。西日が当たる城を見るのとはまた違った威厳に、おもわず息をのむ。


「エリシュマンさんに頼まれてやってきた来客です」


レオナルドがいつもの回る口で門番と話す。快く通す門番と、それを笑顔で受け答える二人。リクはほっとひと安心してレオナルドを見る。城の中に入ると、早速と言ってもいいほどエリシュマンがたっており、神妙な面持ちでこちらを見ていた。


「ありがとうございます……リクくん、レオくん」

「どうしたんですかエリシュマンさん?」


あまりにも浮かない表情だったので、リクは不思議に思った。戦いを控える者として、そんな沈んだ様子ではいけない……と思ったのだ。


「いや、何でもないよ。ところでだけど、姫様の結婚式は10時。あと2時間弱だ。それまでにダビスが良くないことをしている証拠を国民や姫様の前につきだし、あいつをこの国から追放する――という作戦だ」

「その証拠はあるんですか?」

「ああ、勿論だ。既に取ってある」


書類を懐から取り出して二人に見せる。レオナルドはほっと一息つく。リクは髪の毛を右手で掻きわけた。


「じゃあ、控えていただく場所に案内します…」


 エリシュマンが執事室に案内した。今、姫様は多くの侍女によってドレスアップをしているときだ。執事室には当然のことながらエリシュマンしかいない。ダビスとその二人の執事も、彼の結婚式の準備で忙しいようだ。白で統一された家具の下に、真っ赤なカーペットが広がっている。下を見た瞬間に違和感を感じたリクがいたが、緊張した様子のレオナルドがすぐにトイレに走っていったため、その違和感は消えていった。


「レオさんも緊張してるのかな……」

「本当に申し訳ありません……我々が不甲斐ないばかりに」

「いや、引き受けたのは主に俺ですから。だから絶対に勝ちましょう」

「……そうですね」


 執事室のドアノブが回る。レオナルドが戻ってきたのか、と特に気に止めるようすもなかった二人だが、次の瞬間に飛んできた弾丸に目を丸くした。リクが座っていたソファに穴があく。


「やはりジンとブロウを殺したのはお前か」


レオナルドの表情が、入ってきた男たちを見て変わった。その男たちはレオナルドを抱えている。どうやら気絶させているようだった。坊主頭のグレイス、後ろで黒髪を束ねる口ひげの濃いシュドラ。いずれもダビスの執事だった。


「俺がグレイスをやる……リクくんにはそっちの髪の長い方を任せます」

「わかりました!」


リクが走っていき、シュドラに刀を指す。シュドラは右腕で刀を受け止める。彼が密かにつけていた籠手が、刀が彼の腕を貫くのを防いだ。その勢いで執事室を飛び出したふたりは、勢いのままに向かいにあった給湯室へと転がり込んだ。その様子をにやけながら眺めるグレイスはエリシュマンの方を見て笑った。


「あいつは元魔獣討伐隊に所属していた男だ。あの肩に魔獣を乗せていた男は為す術なくやられるだろう」

「そういうお前はどうなんだグレイス?」


エリシュマンが毅然とした様子で背中に納められていた剣を抜く。まっすぐに伸びた鋒がグレイスの方を向く。


「姫様が剣術に優れているのはご存知でしょう? 並みの戦士よりも普通に戦える実力です。無論、彼女の才能が素晴らしかったのでしょう。ここで一つ問題です……果たして誰がその彼女に剣術を仕込んだでしょうか?」


白いスーツを身にまとう執事は不敵に笑う。グレイスはその表情に一瞬恐れ戦慄いた。次の瞬間、真っ直ぐに伸びた刀がグレイスの肩を貫いた。すぐに刀を抜き腹、右胸、左足を刺していく。まるで黒ひげ危機一髪をひとりで遊ぶ子供のように無造作に、それでいて決まった位置に――次々とグレイスの体に穴を開けていく。


「これが王家剣術だ――」


力なく倒れるグレイスを冷徹な目で眺めてエリシュマンは背中に剣を納めた。


 給湯室にて対峙するリク=エルバードとダビスの執事シュドラ。リクの肩に乗るルビーはシュドラに対して激しい嫌悪感を抱く。その様子を察したリクは銀の笛を半袖Yシャツの下から取り出す。


「今日はお前だ……頼むぜミズ!」


笛の音と共に召喚されて出てきたのは、魔獣ミズイタチ、ミズだった。すぐに赤紫色の光と風が現れ、リクの持っていた剣と融合する。


「ほう――お前魔獣使いか?」

「ああ、そうだ。よくわかったな」

「俺は魔獣を殺すプロ、魔獣討伐隊に身を置いていた経験があるんでな。魔獣を倒すすべならいくらでも知ってるんだよ」

「なるほど、ルビーの嫌悪感の正体はこれか」


リクはミズと融合した刀を振り回す。そしてシュドラに向かって突き出す。しかし、シュドラの動きは素早くてなかなか捉えられない。給湯室の迫り来るように立つ壁が狭い部屋であることを強調し、刀を振り回すのを邪魔する。


「どうしたどうした魔獣使ぃいいい!! そんなのでいいのか?」


シュドラは拳銃を右手に、小刀を左手に構え、両手を使い巧みに戦う。リクは思わず苦戦する。振り抜いた刀が壁に刺さる。身動きがとれないところに銃弾を肩にうける。


「よくねえよ……」


たまたま足元にあった蛇口を足でひねる。一気に吐き出された水が重力に逆らうようにして刀の元へと吸い込まれていく。どうやらミズと融合したこの刀は、水を吸って力を発揮するらしい。そうリクが思った刹那、刀の回りに渦が起こる。渦が壁を削り、刀が動けるようになる。リクはその勢いのままにシュドラの方に鋒を向けると、そのまとわれていた渦がまっすぐに伸びていき、シュドラの脾腹を貫いた。


「ぐわっ!!」


給湯室の扉から勢いよく飛び出していったシュドラはそのまま執事室の中に飛び込み、意識なく倒れた。グレイスに重なるように……。


「ありがとうございます、リクさん」

「いえ、それよりレオナルド……」

「仕方ありません、向こうから仕掛けてきた以上、私たち二人で何とかしましょう」


走って行く二人。それを薄目を開けて眺めるレオナルド。二人が通り過ぎていなくなるのを見計らって起き上がる。


「さて、僕は戦いは苦手だし、できることを探そう……。執事室に何か証拠があるかもしれないしね」


それぞれで戦いが始まろうとしていた。

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