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竜姫伝(タイトル仮)  作者: さまー
第一章 コラルド王国編
4/10

4.初めて見るもの

 夕陽が西から差し込み始める頃、ものすごく高い城壁が囲う街にやってきた。門番の兵士の前に少年と青年が立つ。


「あ、エルド商会の者です! 交易の品を採って参りました!」

「いえ、隣の者についてです」

「あ、ボディーガードです…!」


門番の声にちょっと恥ずかしげに目を逸らしたレオナルド=ハイラル。エルド商会というエルド町という小さな町にある商会の下っ端で、コラルド王国の北東部にある森にて魔獣に襲われていたところをある少年に助けられたことで、今ここにこうして無事いるのだ。そしてその少し後ろで同じように気まずそうに笑う少年こそ、リク=エルバードという魔獣使いで、レオナルドを助けた張本人だ。肩にルビーという名のヒートバードという魔獣を乗せている。


「うむ……そうですか、通ってください」


門番は表情を明るく変え、門を開けてくれた。レオナルドだけだったらもはや顔パスで入れていたのかと思うと何だか申し訳なく思うリク。しかし、故郷であるイリーアル村の外にきたのは初めてだ。それに、こんなに近くに大きな王国があったことにも驚きだ。


 門を抜けると、いきなり広がる布張りの屋根。壁はなく、木製の足組みだけで立つ家がある。たくさんのジャムや果物が置いてあるところ、宝石らしき輝く石が置いてあるところと様々だ。


「す、すげえ……」

「リクくんは屋台見るの初めてかい?」

「屋台?」


リクは疑問の声を出す。レオナルドは笑うと、一つの屋台の前に立った。その屋台には、葡萄酒や麦酒などの加工食品が多く陳列されていた。


「ブラッドオレンジ好きだったよね? んじゃ、ブラッドオレンジのジュース二本ください」

「はいよ、300cyね」


それらの陳列棚の奥に座る中年男性にお金を渡していた。この世界の通貨は基本1cycle単位で計算される。通貨の存在は父から聞いていたリクだったが、実際に生で見るのは初めてだった。目を輝かせて初めての光景を見るリクに、レオナルドは笑いかけながらジュースの瓶を渡す。


「はい、さっきのお礼だ」

「ありがとうレオさん!」


嬉しそうに手に取り、喉に通す。濃厚な柑橘系の香りと酸味が透き通る。なにより後味が甘い。本物のブラッドオレンジを食べているかのようだ。


 リクがその美味にとろけている間に、周囲に幼い子供たちが集ってきていた。腕を伸ばしながらリクの方を見てはしゃいでいる。リクが髪の毛を触って不思議な顔をすると、その視線が自分ではなく、自分の肩に乗る小さな魔獣に向けられたものだと気づいた。


「きっとその子達にとってはルビーが新鮮なんだよ。君にとって屋台とか見るのが新鮮であるようにね」


レオナルドが優しく笑う。ルビーを手に乗せて子供達と視線を合わせるためにしゃがむリク。子供達はリクの手に乗るルビーを撫でて大はしゃぎする。


「うはー、すげえ…初めて見たぜ魔獣」

「お兄さん怖くないの?」


興味津々な子供たちにリクは笑って返す。


「魔獣は怖い奴ばっかりじゃないよ。ルビーだってとっても優しい魔獣だからね」

「へえ……」

「じゃあ、ミズイタチさんたちも悪い魔獣じゃないの?」

「ミズイタチ? ああ……俺も今日会ったんだけどさ。全然怖くないし、むしろ人懐っこくて可愛いんだ!」


魔獣の話をしているときは一段と目が輝くリク。きっと魔獣に囲まれて育ったのであろうと納得し、少し羨ましそうに見ていたレオナルドだったが、ふと視線を少し上に上げると、戯れるリクと子供らを心配そうに、不審そうに見ている大人たち。レオナルドは少し慌てた様子でリクの肩を叩く。


「あっ、そうだ! 用事思い出した!! ほらいくよリク、ごめんね君たち……じゃあね!」


話を無理やり切り上げるレオナルドに、リクは困惑している。ルビーを再び肩に乗せ、子供たちと別れを告げた。そこから少し離れたところでレオナルドが周囲の視線を気にしながらリクに囁く。


「思い出した話だけど、魔獣ってこの町の人らにとっては全然いい存在じゃないんだよ。っていうか全世界の共通認識として魔獣は害ってのが根底にあること覚えておいて。だから、魔獣を徒らに人に見せびらかすのはダメだし、魔獣使いってのもなるべく隠すようにしたほうがいいよ……」

「そうなのか……」


 リクの切なそうな顔を見るのは少し心が痛んだレオナルドだったが、この先に交易所があるので、とりあえずは寄り道せずにそこを目指すことにした。リクは先ほどよりも浮かない表情でレオナルドについていく。


「あと……もう一つ、この王国、今内政が荒れてるらしいんだ…何せよ国王夫婦が死んだらしくて……」


レオナルドの話が終わるよりも先に少し離れたところで騒ぎが起きた。ざわつく周囲にリクは視線を奪われていた。レオナルドも興味を見せる。


「どうしたんだろうね……」

「お待ちください!!!」


レオナルドが呟いた瞬間に、男の低い声が響いた。その刹那、白いローブを来た小柄なひとつの人影が二人の間を通り過ぎていった。そして、その後現れる、黒いスーツを来た三人の男。リクが警戒した様子で剣を構えたのをレオナルドはすぐに制する。何食わぬ様子で二人の間を通り抜けていく三人の男たち。レオナルドはほっとした様子を見せた。


「今の人……多分王族だ……。スーツなんて高価な物着てる人を従えてるんだからきっとね……」

「王族……じゃあさっき逃げてたのは……」

「ああ、多分姫様だ…」


 レオナルドはこの国についてリクに説明した。竜姫の復活により、それに操られた魔獣たちによる国民たち被害が増え、内政が悪化。国王夫妻は自殺してしまい、ひとり残された第一皇女のエリ=コラルのみが生き残ったらしい。そんな皇女も、外務官の婿がいるらしく、二日後の16歳の誕生日に結婚を控えているそうだ。


「逃げたってことは、結婚嫌がってんの?」

「んー、まあわがまま皇女で巷じゃ有名だしね……。それにまだ15歳だし。それに例の外務官の婿は言わば王座を約束された立場なわけじゃん? だから内政も担当してるんだけど、いきなり増税に増税を重ねて国民は苦しい生活を強いられてるんだ……。それでもその外務官、エルド商会含め、3つの国や町との交易を獲得するかなりの外交手腕らしいからいつか景気回復すると思って多くの国民は彼が王位につくことを望んでいるんだよ」

「わがまま皇女か……」


許せる許せないはよくわからなかった。王家のことも国の内政、外政、経済のことも一切わからないリクにとっては見たことない言語で書かれた小説を読んでいるかのようなものだ。ただ、国民が望んでいるのにそうしないのはよくないことだというのは、政治音痴のリクでも大体察しがついた。


「あっ! 交易所に言ったら城に言って挨拶しなきゃいけないからくれぐれも皇女さんのこと悪く言うなよ!!」


着いていく前提なのか、と思ったリク。構えかけていた剣を仕舞い、レオナルドと共に交易所を目指して再び歩き出した。


 交易所にてブラッドオレンジ25個を納品し、代金を受け取る。これが取引というものか、と初めての交易の現場を目にしたリク。このレオナルドという男と行動していると、、様々な事を知れる。そのことに僅かながら喜びを感じていた。そのあとは城に向かう。


 城門にて身分を伝える。先程城壁の門で門番と話したときのようなやりとりをもう一度繰り返す。門番は快く門を開けてくれ、すぐ隣にある客間らしき部屋に案内された。


「うわあ……」


部屋に入るとその衝撃のあまり声が漏れたリク。大理石で作られた床に敷かれた真っ赤なカーペットがまず目に入る。黒くつややかな塗料で塗られた机と見るからに柔らかそうな椅子。天井は絢爛なシャンデリアが吊るされていて、壁には複雑な模様が描かれており、どれもこれも初めて目にするものばかりなリクは興奮が抑えられなかった。落ち着きのない彼にレオナルドは思わず笑う。


 そうこうしている間に、客間に、スーツを来た男が現れた。今度は白いスーツだ。背中に剣を担いでおり、かなりの身分の高さが窺えた。


「どうも、コラル王国第一皇女の執事長兼交易財務官を担当しております、エリシュマン=ナルバータです。はじめまして、レオくんのボディーガードさん」


気さくな言葉と共に挨拶をしてきたエリシュマン。育ちの良さが瞬時に窺えた。リクははしゃぐのをやめ、目を合わせずにうつむいて挨拶を返す。レオナルドとはかなり親しい関係にあるようだが、やたらヘコヘコと頭を下げているレオナルドをみるからに、身分が圧倒的に高いエリシュマンのほうが歩み寄っているという状況なのだろう。


「そちらのボディーガードさんとはどういった経緯でお知り合いに?」


執事長らしく白い手袋をはめた手で顎に手を当てるエリシュマン。目鼻立ちはよく、俗に言う『美形』だった。はっきりして凛々しい眉と目は彼からにじみ出る自信と責任を体現していた。


「ああ、魔獣に襲われているところを助けていただきまして……。それにこの人魔獣と意思疎通ができるんですよ!! それに、近くの森に棲んでるミズイタチをなぶり殺しにする悪人も倒しちゃうくらいにすごいんです!」


レオナルドがどれだけリクのことを認めているか一瞬で理解したエリシュマン。顎をさする。一瞬神妙そうな顔をした彼に、リクは話しかける。


「ナルバータさん、どうかしましたか?」

「いや……うちの王国が内政上の問題を抱えているのはご存じですよね?」

「ええ、まあ」


先程レオナルドから聞いたのだ。忘れていたらそれこそ問題である。


「実はその問題……かなり重いものにございまして……国内の者にはかえって頼みづらい内容なのです。申し訳ないのですが……」


エリシュマンはバツが悪そうにリクの方を見ている。リクはその視線にまっすぐ応えるようにエリシュマンを見ている。


「ナルバータさん、その問題、竜姫が復活したことが根本的な原因ですよね?」

「ええ、まあそうですが……」


目の色と血相を変えてしゃべりだすリクにエリシュマンは虚を突かれたかのような感覚に陥る。


「ぜひ、その問題解決協力させてください」

「ちょっ……リクくん!」


リクの眼光は鋭く、決意は固かった。おこがましさすら感じたレオナルドは少し慌てるが、エリシュマン執事長のみるみる好転していく表情に少し安堵する。


「本当ですか!? ありがとうございます!! レオくんも、ありがとう!」

「い、いえ、まあ……えへへ……」


 完全に巻き込まれる形となったレオナルドはどことなく狐につままれたかのような感じがしてやまないが、エリシュマンとリクの顔を見てしまっては断れないのは明白だった。

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