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竜姫伝(タイトル仮)  作者: さまー
第一章 コラルド王国編
3/10

3.お前みたいな悪人を…

 森を歩く二人は木漏れ日をところどころで浴びながら談笑している。


「じゃあその肩に乗せてる小鳥も魔獣なのかい?」

「はい、俺が初めて契約した、信頼できるパートナーってやつです」

「強いのかい?」

「はい! 一ヶ月一緒に修行したんでめちゃくちゃ強いですよ」

「頼もしいなあ」


レオナルドがルビーの頭を撫でる。ルビーは気持ちよさそうに眼をつむる。そんな態度が和ましく思った彼は、すっかり口元を緩くしてにやにやしている。


「ハイラルさん……大丈夫ですか?」


リクが苦笑いしながらその様子を見ていると、レオナルドは我に返りリクの方に視線を戻した。


「ハイラルさんって呼ばれ慣れないからレオさんでいいよ。レオナルドだと長いし」


 森を歩いて十数分、出口が近づいてきたらしい。


「この森って結構魔獣いるはずですよね? あまり出てきませんね」


リクは不審に思った。レオナルドは顎を手でさすりながら考えている様子だ。


「もしかしたら、さっきのゴーレムの行動が何か関わっているのかもしれないね」


リクは先程のゴーレムとの会話を思い出す。


――ニンゲン、オレタチ、ムジョウケンニ、オソウ…

「原因は俺達人間にあるのかも知れないですね…」


リクは遠くを見つめた。レオナルドも、その悲哀のあふれる表情を見て、同様の感情を抱いたのは言うまでもない。


「何だか、君と出会って価値観が変わった気がするよ」


レオナルドは次に足元を見た。今まで自分の抱いてきた固定観念に気恥かしさを覚えた。


 池が見えた。さすがにここなら水生生物系の魔獣がいるはずだ。旅の過程で契約魔獣を増やしていくのも、竜姫と戦う上では必要不可欠なことであると思っていたリクは、池を覗き込む。


「もしかしたら哺乳類水属性魔獣が大量にいるかもしれないね」


レオナルドが嬉しそうに語りかけてきた。何気に人懐っこいのだなとリクは思わず口角をあげた。


 刹那、不気味な高笑いが森の中を木霊した。魔獣の鳴き声とともに、陳腐な演奏を奏でているかのようだ。


「な、何だ!?」


先に驚きを見せたのはレオナルドだった。その視線の先には、両手剣を構えて、力なく気を失う魔獣をそれの上に乗せている不気味な男の姿があった。おそらく、あの魔獣を快楽か何かを目的に殺そうとしているのだろう。前足、後ろ足についた水かき、背中に生えた少々硬そうな毛が、水生魔獣であることを窺わせる。


「り、リクくん! あ、あれ!!」


口をぱくぱくさせながら指を指す。その先を誘導されるように見たリクの表情が一瞬のうちにかわった。


「ルビー、行くぞ」


ルビーは甲高い声で鳴いて応える。リクが剣を構える。首に提げた銀の笛を咥え、鼻から胸と腹が膨らむほどの息を一気に吸い込む。その反動で肩が揺れる。直後、ルビーの鳴き声にも劣らない甲高い音色が響く。魔法陣が現れると共に、魔獣ルビーとリクの持っていた剣が融合する。その光景の一部始終を、レオナルドは映画のワンシーンを見るかのように眼を輝かせて呆然と見尽くしていた。


「す、すげえ…」


呆気に取られるレオナルドの前に立つリク。その手にあるのは、刀剣の色が真紅色となった契約媒体となる武器。そして、鍔の部分から業火が閃光のように光りだす。


「おい、そこの変な奴! どうしてその魔獣を殺そうとしているんだ?」


リクがかけた声に男は不気味な高笑いで返し、「はあ?」と大声をあげた。


「そりゃあ魔獣の生存が人類にとって不利益だからさ!」

「この野郎……」


リクの表情が変わった。先程レオナルドを襲っていたゴーレムに向けたものとはまるで違う、冷ややかで鋭くて、吸い込まれるような眼光……。レオナルドはその変貌の落差に寒気すら覚えた。


――やっぱりリクくんは……魔獣使いだ……


目の前に立つ不気味な男は高笑いを続けたまま魔獣の体を草木の茂る地面に叩きつける。奇声を発しながら刀剣を振り回し、リクとの距離を詰めていく。リクは一歩も動かない。眼光は鋭くまっすぐに不気味な快楽殺獣鬼に向けられている。剣にまとわりつく剛火は勢いを減退させることを知らない。


「人類の利益は尊重されるべきものだ! よって弑することを咎めることはできない!!」

「……アホか」


ほんの数mm、リクは上体を後ろに逸らす。次の瞬間、剛火をまとう剣を振り、トチ狂った男の両手剣を薙ぎ払う。重量は圧倒的に両手剣のほうが上だ。やけどをおったのか、リクに対峙していた男は怯んだように歩みを後退させる。もうひと振りが、確実に男の身体を捉えた。剛火が男を包む。男は熱さのあまり池に飛び込む。


「あっ!」


慌てるレオナルドをリクが制する。


「大丈夫です。あの池の中には魔獣がたくさんいます。今さっき殺されかけていた魔獣の仲間が」

「え?」

「レオさん、あの魔獣の治療できますか?」


レオナルドはリクの発言に慌てた。治療するものは十分に持ってきていたが、魔獣を助けるなどしたことがない。飲んだこともない麦酒を作れと言われているようなものだ。しかし、彼は許せなかった。たかが私利目的の魔獣の殺害を、人類の利益などと謳って正当化しようとするあの男の行動に、そして彼は自分の固定観念を打ち砕きたかった。『魔獣は悪いものばかりではない』と、リク=エルバードという旅中の魔獣使いに教えられたから。


「任せてくれ、その代わり……あいつをぶちのめしてくれ」


できる保証はなかった。自信はそこまで無い。それでも彼を包み込む使命感が素早い手際を生み出していた。レオナルドの言葉を受けたリクも、池に少しずつ近づいていく。鍋の水が沸騰するかのように池の水面に気泡が立つ。


「ぶはぁ!! 許さん……許さんぞお!」


男は怒り狂っている。水で濡れた薄金色の髪の毛がうねっている。眼球には水が入ったからか、赤い筋が大量に浮き出ており、彼の怒りを助長させているようだった。リクも同様に怒りを抱きながらも、内心は冷静だ。


「さっきのお前の言葉、反論するならば…魔獣が生きていることはそこまで不利益にはならない。なぜなら、その池の中にいる魔獣はお前に対して全く攻撃を仕掛けないからだ」


リクの言葉を受けて男が池の中を凝視すると、サッカーボールくらいの大きさの水生魔獣が怯えながら池の底で震えている。歯を食いしばる男に、尚もリクは言葉を続ける。


「そして、魔獣が生きていることは利益になる……個人的な理由になってしまうけどな……こうやって協力してお前みたいな悪人をぶっ飛ばせるんだよ!!」

剣から発せられた炎が感情と一致してか、一層焚き上がる。まるで火柱となったその刀剣は、男の身体を確かに捉えた。


 男は池の中にいたが、その衝撃を受けて池の淵の更に向こうの茂みにまで飛んでいった。リクは額から流れる汗を拭うと、短い髪の毛をさすって口の中の呼気を一気に吹き出す。


「リクくん! やったよ!!」


朗報を聞いたのはその直後だった。リクはレオナルドの声のする方へと走って行く。


「魔獣図鑑を持ってたのが幸運だったよ……おかげで体の構造を理解できたからね」


レオナルドはカバンの中の魔獣図鑑を見せながら笑った。何しろ、商品採集の際に危険な魔獣を確認するために持ち歩いていたのだとか。


「こいつはちなみに『ミズイタチ』つって哺乳類型水属性魔獣だ。君がこいつのことを知らないのはどうやらこの森の池にしか住んでいないかららしい」

「へえ……その図鑑いいですね……」

「そ、そうかい? でもあんまりたくさん種類があるわけじゃないんだよね」


照れながら呟いたレオナルド。――別にこいつのことを褒めたわけではない。リクは悲しそうにその魔獣――ミズイタチを撫でた。


「大丈夫か……痛かったろ……」


喉を鳴らすような音が響く。おそらくこの魔獣の鳴き声だ。治療された箇所はところどころ痛そうだが、目をつむって鳴くその姿は愛らしいものがある。


 おもむろに銀の笛を取り出すリク。


「一緒に来ないか?」

「クー!」

「よっしゃ」

頭をなでると硬い毛と柔らかい毛が混じりあって掌が痒くなる。リクはにっこり笑うと笛の音を奏でた。


「す、ずわあああ!!」


先にリアクションを見せたのはレオナルドだ。ミズイタチとリクを囲むように地面に現れた魔法陣が赤紫色の強い風と光を上向きに放つ。耳鳴りのように、繰り返し奏でられる笛の音がリクの耳に入ってくる。その光に吸い込まれていくミズイタチ。


「ミズイタチだとなげえから……ミズって呼ばせてもらうぜ。よろしくな」

「す、すごいじゃないか!! もう僕はとてもいいものを見せてもらったような気がするよリクくん!!」


初めて自ら魔獣と契約した。リクは手応えからか胸の奥から溢れ出る興奮を抑えられない。しかし、隣のレオナルドとかいう男がそれ以上に興奮しているためか、不思議と冷静だった。リクは半笑いでなだめると、歩き始めた。


「レオさん! 早く行かないと日が暮れちゃう!!」

「そ、そうだね! いこっか」


 そうして二人と二匹は草木の生い茂る道を足並み揃えて歩き始めた。コラルド王国を目指して――

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