吊り橋で待ち伏せ
仁達は足場の悪い山道をひたすら上っていた。何が悲しくてこんな思いをしなければならないのか。理由は明白である。そこに聖剣があるから、これに尽きる。
「おい、あそこに家がある。情報を集めよう」
山道を登り切ると、仁達の目の前に小さな酒場が姿を現した。
「こんな場所で繁盛するのかは知らんが、とにかく行くぜ」
仁達は酒場の中に入って行った。
「御免くださーい」
「おい、ルミナス。御免くださいは無いだろ」
「だ、だって・・・・」
ジャンヌはカウンターで洗い物をしているマスターに声を掛けた。
「あの・・・・」
「おや、随分と綺麗な方だね。にしても、今日は知らないお客さんが多いなあ」
マスターの発言に、ジャンヌの顔付きが変わった。
「知らないお客さんって?」
マスターは洗い終わったジョッキを拭きながら、仁達をカウンター席に座らせた。
「ああ、30分ほど前だったかな。変な顎鬚を生やした男が来たよ。自分のことをガラガラヘビとか言っていたな」
「ガラガラヘビ・・・・?」
ジャンヌの頭に?マークが浮かんでいた。
「おい、パツ金のねーちゃん。こっち来て一緒に飲まないかい?」
ジャンヌの背後に向かって、下品な言葉が飛び交った。見ると、見るからに柄の悪そうな男達が、まだ昼だというのに、酒を呷り、顔を真っ赤にしてイヤらしい眼でジャンヌを見ていた。
「あなた達は?」
「俺達はよお。ここの常連だぜ。ねーちゃん、中々の乳をしているね」
「まあ、いけない方」
ジャンヌは口元を手で押さえて戸惑っていた。それを見たレベッカが彼女を庇うように、男達の前に仁王立ちになった。
「失礼な。女を何だと思っているのだ?」
「おい、あんたも中々良いねえ。乳はちと小さいが、全然構わないぜ」
レベッカは顔を真っ赤にすると、無意識に腰からシルバーブレットを引き抜いて、男達に向けて発砲しようとした。
「おい、止めろ」
寸前のところで仁が止めたので、事なきを得たが、依然として有力な情報は得られていなかった。仕方なく、マスターに礼だけ言って、仁達は聖剣を素直に探すことにした。
聖剣の指し示す方向を頼りに、仁達は赤土の大地をひたすらに進んでいた。途中で旅人らしき人物と何回かすれ違ったが、どれも怪しいものではなかった。いくら歩いても見る景色が変わらないというのは、カルゴタの砂漠と同じかもしれない。
「うわあああ」
突然、ルミナスが大声を上げて震え始めた。
「どうした?」
「見てよ。あれ・・・・」
ルミナスの指した先には、風に揺られて今にも落ちそうな吊り橋があった。ここから向こう岸に行くには吊り橋を通らなければならない。聖剣も吊り橋の方向を示していた。
「ルミナス。私が手を繋いでおいてあげましょうか?」
慈愛の天使、ジャンヌがルミナスを見て優しく微笑んだ。仁はそんな二人を放って橋を渡り始めた。ふと、先の光景を見ると、向こう岸には、カウボーイの格好をした男が立っていた。先程マスターが言っていた客と同じように、顎鬚を生やしている。さらに、腰には黒い拳銃が指してある。異様な雰囲気を感じた仁はジャンヌ達の方を思わず振り返った。
「おい、まずいぜ。敵だ」
仁は木刀を右手に持つと、恐る恐る橋を進んで、男の元ににじり寄って行った。男の方も同じように橋を渡り、仁の方に歩き始めていた。対立する両者、まるで西部劇のようにも見える。




