ならず者とガラガラヘビ
ここは地殻変動と浸食作用により、形付けられた渓谷の世界、コロラド世界である。人口は非常に少なく、質量も地球の10分の1ほどしかない。赤土の大地と乾燥した風が吹き荒れる独特な風土を保っているのである。そして、コロラドにある無数の山脈の内、その山頂部の一つに、小さな酒場があった。周囲を白い霧で囲まれており、視界が悪く、不便な場所だったが、そこに一人の見慣れない客が訪れて来た。
「いらっしゃい。あれ、あんた見ない顔だね」
人の良さそうな顔をした、髭を鼻の下に蓄えた酒場のマスターが、洗ったジョッキを拭きながら、初めて見る客をカウンターで迎えた。入って来たのは、カウボーイの格好をした、顎を髭で真っ黒に生やした男だった。彼はカウンター席に座ると、ギロリと鋭い目でマスターを見た。
「ビール」
「あいよ」
マスターは注文を受けると、早速ビールをジョッキに注いで、男の席に置いた。男の背後で何人かのガラの悪そうな連中が、男に指を指して、何かをブツブツと言っていた。
「おい、あんちゃん。見ない顔だがよ。この店に来たんなら俺達に挨拶ぐらいしろや。あんちゃん、名前は何て言うんだ?」
連中の一人が、酒気を帯びた口調で、カウンターに座る男に声を掛けた。まるで挑発するような口調だった。
「ああ、悪いな。初めてなんでルールがよく分からないんだ。俺の名は・・・・。そうだな、ガラガラヘビとでも呼んでくれ」
男の言葉に、ガラの悪い連中は思わず吹き出してしまった。マスターですら洗い物の手を停めて、笑いを堪えていた。
「ああ、悪いなガラガラヘビさんよ。親に言われた言葉を思い出したぜ。知らないおじさんとは口聞いちゃいけませんってなあ」
男はビールを飲み掛けのまま、席を立つと、マスターに金を払って店から出ようとした。
「あんた、もう良いのかい?」
流石のマスターも悪いと思ったのか、思わず男を呼び止めた。男は振り向かずに腕だけ挙げると、指をパチンと鳴らした。
突然、店内に綿飴のような物体が、フワフワと宙を舞いながら入り込んで来た。何とそれは小型の雲であった。雲は男のことを笑った連中の頭上で止まると、突然、激しい雷雨を連中の頭に浴びせた。それはスコールと呼んでも、差し支えないほどに激しい勢いだった。
「ひええええ、何で建物の中で雨が降ってんだあああ」
さっきまで人を小馬鹿にしていた連中が、頭を抱えてパニクっていた。男はそれを横目で見ると、その哀れな姿を笑った。
「あはは、俺の本当の名を教えてやるよ。俺の名はタイガ。俺も親から聞かされていた言葉があってな。そいつは、眼には眼と歯を。眼と歯には、口と鼻を・・・・だ。報復は必ずするタチでね。俺は恥をかかせれたろ。お前らは恥をかいた上にずぶ濡れになった。これで手打ちにしようや」
タイガは笑いながら店から出て行くと、店の前に立っている灰色のローブを着た少女、リンを発見し近付いた。
「おい、何か用か?」
「ギース様のご命令だ。お前の出番が来たのだ。仁達一行がこの世界に到着したらしい。早く持ち場に着け。そして聖剣を守れ」
「分かってるよ。俺は金さえもらえればそれで結構だから。仕留めるぜ。ギースの障壁になる輩は」
かくして、タイガは仁達の捜索を開始した。仁達も同じく聖剣を求めて、敵を探し歩いていた。




