湖底の死闘
仁は木刀を振り上げると、泡の壁に向かって叩き付けた。泡は風船のように叩かれた方向に凹むと、トランポリンのように、仁を外に向かって押し戻した。
「ごぼ・・・・」
仁は湖から飛び出すと、地上に顔を出して肺に酸素を溜めた。
「はあ・・・・はあ・・・・。くそ、泡に阻まれて進めないぜ」
仁は再び湖の中に入ると、ラブに向かって泳いで行った。
「うふふふ、無駄よ。ちょっと痛い目に遭ってみなきゃ分からないようね」
ラブは手の平から泡を出すと、それを水圧とともに仁に向かって飛ばした。
「ぐっ・・・・ごぼ」
泡はまるでカッターの刃のように仁の頬を切り裂いた。彼の頬からは血が流れ湖に溶けて行った。
(野郎・・・・)
仁が苛立っていると、湖底にラブとともにいるルミナスの眉が僅かに動いた。彼はまだわずかに意識が残っている。
(ルミナス・・・・)
ルミナスは眼を開けると、突然胸ポケットからナイフを取り出して、自分の手首をそれで傷付けた。彼の手首から血液が際限なく流れ、湖に溶けた。その時、仁は彼の思惑に気が付いた。そしてニヤリと不敵にほほ笑むと、突然、地上に向かって泳ぎ始めた。
「ぶはあ・・・・」
仁は湖から出ると、ジャンヌとレベッカの方を向いて叫んだ。
「おい、危ないぜ。伏せろ」
仁はレベッカとジャンヌを突き飛ばすと、自分も同じように地面の上にうつ伏せに倒れ込んだ。それとほぼ同時のタイミングで、湖が轟音とともに跳ね上がった。ルミナスは肩で息をしながら、仁の手を掴んで地上に上がると、苦しそうに咳をした。
「げほ、はあ・・・・はあ・・・・」
「ルミナス、マジでイカレた根性の奴だ。まさかあのタイミングで、敵に一矢報いるとはな」
「うう、僕の魔法、クリムゾン・ナパームは、自分の血液を爆発させられるからね。ジンが手首から血を流したのを見て、もしかしてと思ったんだ」
「見ろよ。あの女まだ生きているぜ。せっかくだからギースについて情報を聞くか」
仁は湖の上でプカプカと浮いているラブを引っ張り出すと、仰向けに地面に寝かせた。彼女は咳と一緒に水を吐き出すと、眼を血走らせて仁達を睨んでいた。
「おい、急いでいるんでな。ギースの能力について知っていることを話せ」
「冗談じゃないわ。はあ・・・・はあ・・・・」
起き上がろうとするラブを、レベッカが押さえつけた。
「待ちなさい。質問に答えて」
「うるさいわね。言えないのよ。言ったら殺されるわ」
ラブはレベッカの手を振り払うと、そのまま仁の脇を抜けようとした。仁はそんな彼女の喉元に木刀の先を付けた。
「あまり好きなやり方じゃないが。世界の命運が掛かっているらしいんでな。話さねえと、今死ぬことになるぜ」
「ふっ、悪いけど、そんな脅しには乗らないわ。だってあなたの眼には殺意が無いんですもの。目的のためならば手段を選ばない。あの方と違って、あなたには目的のために倫理観や道徳観を捨てる勇気が感じられない」
「あの方とはギースのことか?」
「ああ、もう面倒だわ。じゃあ一つだけ教えてあげる。ギース様の能力は、正に無敵の能力だということ、私自身も間近で見たことは無いけれど、噂では、この世のあらゆる現象を支配するとか言っていたわ」
ラブが話し終えると、突然、銃声とともに彼女の首が吹き飛んだ。
「なっ・・・・」
仁は急いで、銃声の聞こえる方角を見ると、そこには茶色の髪にカチューシャをした少女が、手に猟銃を持っているのが確認できた。彼女は灰色のローブに身を包んでおり、まだ幼く見えた。
「お前・・・・」
「ギース様の命令・・・・裏切り者の始末・・・・成功しました」
少女はそのまま猟銃を降ろすと、砂漠の中に消えて行った。仁はジャンヌの顔を見たが、彼女は首を静かに横に振っていた。
「あれはホムンクルスですね。恐らくギースの駒使いか何かでしょう」
「まだ聞き足りないことがあったというのによ・・・・」
「きっと、口封じが目的でしょう。裏切り者と、彼女のことを言っていたあたりからして怪しいです」
「二人とも、見て、聖剣が刺さってるよ」
ルミナスはオアシスの中の草むらに隠れている聖剣を発見した。
「さあ、仁。抜いてください」
「おう」
仁は聖剣を引き抜いて、それをジャンヌに手渡した。
「さあ、聖剣が指し示す、次の世界に向かいましょう」
ジャンヌが抜いた聖剣で空を斬ると、金色に輝く異世界への入り口が開いた。




