オアシス
レッキングヒルズの中央部に位置する、巨大な黒いビル。その最上階にギースはいた。彼はグラスに注がれた赤ワインを飲み干すと、静かに立ち上がった。
「ギース様」
ギースの前に、8人もの少女が膝を突いていた。彼女らは黒いボンテージスーツを着ており、全員とも同じ顔、同じ髪型をしていた。茶色のおかっぱに青のカチューシャ、過激な格好とは裏腹に、少女達はまだ幼かった。年齢的には14歳が妥当な見た目をしていた。
「リンか」
ギースは彼女らの名前を言った。彼女らはホムンクルスである。魔法で抽出した人工精子と人工卵子の結合により誕生した生物。
「ギース様。ジョンスンが敗れ、敵は聖剣の眠るオアシスを目指して進行しています」
「予想どおりよ。奴では役不足であったな。しかし、オアシスにはもう一人部下を配置してある。奴ほど暗殺に適した者もおるまい」
仁達は砂漠を横断していた。ジョンスンから巻き上げたラクダの上には、レベッカとジャンヌが乗っており、仁は死に掛けのルミナスをおぶっていた。
「おい、死ぬなよ。この先にオアシスがあるみたいだからな」
「うん、大丈夫だよ」
少女のように華奢で、色白のルミナスにはキツいのかも知れない。
「見てください。オアシスがありましたよ」
ジャンヌは地平線の先にある、ヤシの木と湖を発見し、彼女らしくない大声を出した。
「二人とももうすぐですわ」
「おう」
オアシスに到着した仁達は、早速、湖に近付き、水筒の中に水を補充すると、手で水を掬い飲んだ。こんなに美味しい水は、仁達にとっては新鮮だった。
「はあ、助かったぁ」
ルミナスは喉を鳴らして水を飲むと、ヤシの木に生えている、二つの果物を見て、歓声をあげた。
「みんな、見て見て、レモンとライムがあるよ」
「ヤシの木の影で休めそうだな」
仁はヤシの木の下に座って寛いでいた。ルミナスは嬉しそうにレモンやライムを千切っていた。ジャンヌやレベッカもそれぞれ束の間の休息を楽しんだ。仁は長旅の疲れも手伝って、木に背中を預けてそのまま少しばかり眠った。
バシャンという音とともに何かが湖に落ちた。水飛沫が仁の頬に掛かり、彼は眼を覚ますと、湖に泡が立っているのを発見した。そして恐る恐る近づくと、何かが湖底に向かって少しずつ沈んでいる。この湖は予想以上に深いらしい。
「おい、何だあれは?」
ジャンヌとレベッカも湖の前に駆け付けた。そして湖の中を覗き込んだ。
「何かが下にあるみたいですね」
「ああ、それよりもルミナスはどこにいる?」
「え?」
ジャンヌとレベッカは周囲を見渡した。さっきまで楽しそうに果物を取っていたルミナスの姿がそこには無かった。
「くそ、嫌な予感がするぜ」
仁は制服のまま湖の中に飛び込んだ。
(何だあいつは・・・・)
湖底には、意識を失っているルミナスと、それを小脇に抱えている女がいた。女はピンク色のビキニを着ており、頭にすっぽり大きな泡を被っていた。
「うふふ、よく来たわね。私の名はラブ。魔法名は「オアシス」、水の中で力を発揮する能力よ。この泡の中には酸素があるから、1時間ぐらいは潜りっ放しでも生きていけるの」
仁は木刀を握り締めると、そのまま少しずつ湖底に向かって泳いだ。ラブはルミナスを抱えていない方の手を開くと、手の中から泡がいくつも出現し、仁と彼女の間に停滞し、まるで壁のようになっていた。




