怪虫の到来
仁達は額に汗を流しながら、無限に続くかのように広がる砂漠を歩いていた。砂の上を進むというのは、予想以上に疲れるものだ。砂に足を取られ、同じ距離でも、平地を歩いているより遥かに時間が掛かった。
「おい、マジでこの先に聖剣はあるのか?」
「ええ、聖剣はそう示しています」
ルミナスは、仁達の会話には加わらず、ひたすら虚ろな目で地平線の彼方を眺めていた。彼は色々と限界だったのだ。
「ジャンヌ、ルミナスがやばい。ここらで休めないか?」
「休むと言っても、休める場所なんて・・・・」
1キロ歩こうが、2キロ歩こうが、景色は変わらない。ルミナスは水筒を口に含むと、突然それを口から吐き出した。
「熱、熱いよ。この水。もうこれお湯だよ」
「何てこった。水が熱くて飲めねーほどに、気温が高いのか」
ルミナスは火傷した唇を手で拭った。
「見て下さい。前からラクダに乗った人がこっちに来てます」
ジャンヌは正面からこっちに向かって来るラクダに乗った男を指して言った。
「敵かも知れないですわ。ここはわたくしが」
レベッカはシルバーブレットを構え、臨戦態勢を取った。仁とジャンヌの顔にも緊張が走る。正面のラクダ男は、レベッカの前に来ると、ラクダを停めて、ニコッと笑った。
「そんなに警戒しないでくださいよ。私は商人です。キャラバンと逸れちまって、困ってるんです」
商人と名乗ったその男は、ラクダから降りると、ラクダの背に括り付けてあった白い布袋を取り、中から水筒を取り出して、仁に投げ渡した。
「一緒に来てくれるなら。商品の一部を上げますよ。私はジョンスン。ただの商人ですから」
「ほう・・・・」
仁は水筒のキャップを右に回しフタを取ると、その飲み口をジョンスンに向けた。
「ほら、お前が飲めよ」
「え?」
ジョンスンは仁の言葉に戸惑っていたが、仁の眼は本気だった。ジョンスンは震える手で水筒を受け取った。
「な、何故私が飲むんですかね。あなたに差し上げようと思ったのに」
「わざわざ説明するのも面倒な話だが、その水筒の中にハエが何匹もいたんでな。気味悪くて返すぜ。ほら、このハエだ」
仁は右手に掴んだハエを、ジョンスンに見せようとした。しかしその時、突然ハエが口から黄色い液体を仁の手の平に吐き出した。仁の手に硫酸を掛けられたかのような、熱い痛みが走った。
「ぐう・・・・こいつは・・・・」
仁は手の平のハエを潰すと、さらにハエの体から黄色い液体が溢れ出し、仁の皮膚の皮を僅かに溶かしていた。
「お前、刺客みたいだな」
仁がそう言うと、ジョンスンは舌を出してニヤリと笑った。そしてラクダに乗り直し、人を小馬鹿にするように手を叩いた。
「ブラボーだよ。ブラボー。よく俺が刺客だと分かったな。俺の能力、その名もハンターフライに引っ掛からないとは、中々にやるぜ」
ジョンスンはラクダを歩かせると、仁達から距離を置いた。そして口笛を吹いた。
「ほおら、僕ちゃん達。俺のためにあいつらを溶かしてやってくれ。あの方に褒めて頂くためにね」
ジョンスンが何に話し掛けているのか、仁達には理解できなかったが、彼の能力の謎を突き止めない限り、仁達に勝機が無いのも事実だった。




