その名はギース
山頂部にて、仁の推理タイムが幕を開けた。
「良いか。さっき化け物に襲われた時、お前は俺達の陰に隠れたな。そんな根性と実力で、よく今まで生け贄を山にまで連れて行けたな。そして、山の神とやらが、お前にだけ生け贄を連れて来させていたのもおかしいぜ」
カシムは仁の手を振りほどくと、苦しそうに首を手で擦っていた。
「シタリ顔で偉そうに言いやがって。元からバレるのは覚悟の上よ。俺のクソ親父のように間抜けではないみたいだからな」
「お前、何故こんなことをした?」
「狭苦しい田舎にうんざりしてた。まあ、最大の理由は、あの方に出会ってしまったからかな」
カシムは吐き捨てるように言うと、仁の顔を見て、ニヤリと笑った。
「あの方だと?」
「あの方はあまりに強く美しい。初めて会った時から、俺はあの方を親以上に尊敬していた。国のために命を捨てる兵士の気持ちを初めて理解した」
「あの方は誰だと聞いているんだぜ」
「あの方の名はギース。俺はそれ以外知らない。しかし一つ確かなこととして、あの方に従っていれば、俺は幸せになれる」
カシムは深呼吸すると、口から取り込んだ酸素を吐き出した。それは煙草の煙のように白く、またルービックキューブのような形状で、宙を舞っていた。
「何だ?」
「俺の才能だ。あの方は現代魔法と呼んでいた。その名も、火を噴く空気」
空気の固まりは、仁の右肩に触れると、突然、その場で発火した。
「ぐ…」
仁の制服は黒く焦げ、露出した肩はピンク色に火傷していた。彼は思わず、肩を押さえて蹲り、目の前で笑っているカシムを睨み付けた。
「野郎舐めやがって」
仁が立ち上がると、レベッカが彼の横から、グイッと割り込んで来た。
「ここはわたくしに闘わせてください」
「悪いなレベッカ。こいつは俺が叩く。人生で最も俺が我慢ならんのが一つだけある」
仁は木刀を強く握った。そして、カシムと正面に並んだ。
「舐められること。不幸というものは。人に舐められた時から始まるんだぜ」
仁が戦闘体勢をとると、レベッカは諦めて彼の後ろに下がった。
「けけ、格好つけやがって。俺の能力で燃えな」
カシムは息を吸って、口をすぼめると、先程よりも小さな空気の固まりを、小出しにいくつも体の周りに浮遊させた。
「ふん、芸の無い野郎だ」
仁はズボンのベルトを外すと、それをムチのようにして持っていた。
(アーツで、ベルトを強化した。一度に強化できる物質は一つだけだ)
「死ね」
空気の固まりが弾丸のように、仁に向かって行った。彼はベルトを伸ばすと、自ら空気に触れ、爆発に巻き込まれた。
「ぎゃはは。馬鹿か貴様は」
「ぐっ、しかしこれで良い 」
仁は煙の中から飛び出すと、ベルトを振り上げた。
「一つ疑問なんだけどよお。ベルトに付いてる金属のバックルは、熱を帯びるとどれぐらい熱いんだろうな」
仁はベルトのバックルを、カシムの顔面にぶち当てた。彼の皮膚がボロボロと崩れ落ちて、そのまま彼は後ろに倒れてしまった。
「ベルトをアーツで強化しておいた。熱を帯びた金属も、鉄を溶かせるぐらいに熱くなったはずだ」
仁の言葉は、 カシムには届いていなかった。彼の頭の中は無数の星でいっばいだったからだ。




