ジャンヌとの出会い
「うあ・・・・ここは?」
ルミナスは仁の部屋のベッドで意識を取り戻した。全身打撲のせいか体が重い。仁は冷蔵庫から氷を持って来ると、相変わらずの悪い眼つきで、ルミナスを見下ろしていた。
「ほれ、頭を冷やせ」
「あ、ありがとう・・・・」
「お前は何者だ?」
「僕はルミナス。ある男に復讐するために旅をしていた」
ルミナスは上流貴族の一人息子だった。父は貿易関係の仕事に就いており、詳しいことは子供の彼には分からなかったが、彼は父を尊敬していた。母は美人だったが体が弱く、いつもベッドの上にいた。
ルミナスの夢は父の仕事を継ぐことであり、そのための英才教育を受けていた。何不自由無い暮らし。誰もがルミナスを羨んでいた。しかし、そんな日々も突然終わりを告げる。
ルミナスはいつものように、病弱な母の代わりに買い物に出掛けた帰り、彼の家が炎に包まれているのを発見した。彼は手荷物を投げ出すと、家路を急いだ。
「お母様、お父様」
そこには父の姿も母の姿も無かった。ただ、業火の中に、人型の影がルミナスをじっと見ていたのだ。
「君が助かったのは偶然じゃない。これが君の宿命だったのだ」
影は炎の中でルミナスに語り掛けて来た。声は男性のもので若かったが、同時に威厳を感じる声でもあった。
「き、君は誰だ?」
「私のことなどどうでも良い。ところで、君には才能があるようだな。その才能が開花したら私に会いに来ると良い」
影はそれだけ告げると、炎の奥へと消えて行った。ルミナスは両親を殺し、家を焼き払ったのが、その影であることを直感で知った。その後、彼は影の男の予言通り、ある日突然、不思議な力に目覚めたのであった。
「お前の過去と、俺を襲ったのと関係があるのか?」
「まだ話に続きがあるんだ。僕はその後、影の男と出会ったんだ。そこで男と闘った。しかし、そこから先の記憶が無いんだ・・・・」
ルミナスは頭を押さえて、その場に蹲った。思い出そうとしているらしい。
「ダメだ。思い出せる気が全くしない。記憶が欠落している」
「けっ、俺には関係無いがな。いずれにせよ。その体じゃ当分は動けない。そうしちまったのは俺だが、別に謝らないぜ。襲って来たのはお前の方だからな。それに、厄介な客が来やがった」
仁は窓から外を覗いた。玄関前に結奈が立っていた。そしてインターホンに手を掛けている。
「鞄を預けた挙句、学校サボったから怒ってんだな。面倒臭いぜ」
仁は立ち上がると、ルミナスをベッドに寝かせたまま、階段を降りて、気怠そうに欠伸をすると玄関の戸を開けた。
「悪いな。今は取り込み中だ」
「何が取り込み中よ。バカ」
結奈は仁の顔に彼の鞄を投げつけた。仁はそれをキャッチすると、結奈の顔を真剣な表情でマジマジと見つめた。
「な、何よ?」
「顔色悪いぜ。どうした?」
「あ、ちょっとね。熱あるのかな。少しだけ体が怠い」
「家まで送ってやるよ。倒れられても迷惑だ」
仁は結奈の前で背中を向けると、両手を出して、彼女をチラッと見た。
「ほら、おぶってやる」
「え、良いよ。別に・・・・」
「良いから早くしろ」
「うう・・・・」
仁は結奈を背負った。結奈の家は隣なので、そこまでする必要は無いのだが、彼はいつも結奈が体調を崩した時は、彼女を背中におぶっていた。
「ほらよ。さっさと休め」
「はいはい」
仁は結奈が家に入るのを見届けると、そのまま宮代家の庭から出て行った。そして自宅へと歩いている途中に、奇妙な気配を感じ立ち止まった。
「あらあら、私の存在に気付いていましたの?」
「ああ?」
仁の背後には、朝見掛けた金髪の美女が立っていた。相変わらず白いドレスに身を包んでおり、これから結婚式でも挙げるのか、思わず聞きたくなるほどに派手な格好をしていた。
「申し遅れました。私の名はジャンヌ。神などと呼ばれることもありますね」
「あんたさあ。マジでヤバイって。年齢的には20代前半ってところだろうが。そろそろそういうのは卒業した方が良い。それともラリってんのか?」
ジャンヌは溜息を吐くと、急に真剣な眼差しになった。
「時間がありません。要件を伝えます。あなた、家の中に人を匿っていますね。ルミナスという少年を」
「何だ。あいつ、あんたの知り合いだったのか。劇団でもやってるのか?」
「彼はあなたに何かしましたか?」
「いきなり喧嘩を売られたぜ」
「やはり、彼は操られていたのですね」
ジャンヌは一瞬俯くと、すぐに顔を上げて、仁の元に静かに近付いた。
「来てください。あなたに見せなければならない物があります」
「俺にだと・・・・」
「早くしないと、あなたの大事な人が全員消えることになる」
ジャンヌは仁を連れて、近くの空き地に向かった。




