要するに倒せば良いだけの話
巨大な爆発によって、倉庫を炎の渦が包み込んだ。ルミナスは炎の中を掻き分けて、倉庫の出口から外に出ると、近くに散乱しているダンボールの箱の上に腰を降ろし、爆発する倉庫を見ていた。
「少しやり過ぎたかな?」
ルミナスはクスクスと静かに笑った。そして用の無くなったこの場所から、背中を向けて帰ろうとしたその時だった。
「待ちな」
背後から聞き覚えのある男の声がした。慌てて振り向くと、そこには焦げて真っ黒な制服に身を包んだ仁が立っていた。
「ああ・・・・」
「マジでイカれたガキだぜ。プラスチック爆弾なんてどこに隠し持っていた?」
「ち、違う。これは僕の能力だ。血液を爆弾のように好きなタイミングで爆破させられる。しかし、お前の能力は分からない。一体何をしたんだ・・・・」
仁は戸惑うルミナスを無視すると、近くに落ちていた木刀を拾い上げて、ルミナスにその先端を向けた。
「悪いけどよ。お前を殴って終わりにさせてもらうぜ。鞄を結奈に渡しちまったからな。学校に行かないと・・・・」
「う、うるさい。こっちに来るな」
ルミナスは後ろに下がった。
(しかし。俺はさっき、何で無事だったんだ・・・・)
仁は握っている木刀をじっと見つめた。力を込めると木刀が緑色に光るのだ。そして、形状が木刀とは思えないほどに鋭利な物に変わっているように見える。この時、仁は気付いていなかったのだが、これこそが仁の才能。ルミナスの血液を爆発させる能力と同じように、彼だけが使える不思議な力。物質の強化だった。
物質の強化とは、ただ物質を頑丈にするわけではない。あらゆる面で、総合的な意味で強くするのである。日本刀よりも斬れる木刀や。マグナム銃よりも貫通するビー玉を見たことのある人間はいるだろうか。いや、いないはずである。仁は触れた物質に力を込めることで、その物質を強くできるのだ。
「これでも喰らえ・・・・」
ルミナスはポケットからハンカチを取り出すと、それを風に任せて手を離した。ハンカチは風に揺られて、仁の右肩に触れた。その瞬間。ルミナスは勝ち誇ったように叫んだ。
「あはは、そのハンカチの表面を見てごらん」
「ああ?」
仁はハンカチを掴むと、その場で広げてみた。何とハンカチの表面には血が付いていた。
「さっきの切り傷を拭いた時に付いた血だ。そして僕の次の行動は・・・・」
ルミナスは、自分の開いている右手を握ろうとした。
「これで終わりだね」
「ああ。終わりだな。ただしお前だけがな」
仁はハンカチを掴むと、それを胸ポケットに入れて、ルミナスの元に走った。そして彼のすぐ目の前に立つと、彼の胸倉を掴んだ。
「ああ・・・・」
ルミナスの華奢な体はいとも簡単に浮いた。
「さっさと爆発させろよ。まあ、お前にはできないだろうがな。何せ、この距離で爆破なんてしたら、お前まで巻き沿いを喰らう羽目になるからな」
仁はポケットからハンカチを取ると、それをルミナスの口に突っ込んだ。
「んんん・・・・」
口を塞がれパニックになるルミナスの顔面を、手にした木刀で思い切り横から殴り付けた。
「ごほおおお」
ルミナスは錐揉み状に吹き飛ぶと、背後にある一斗缶の山に激突してハンカチを吐き出した。そして腕をこれ見よがしに鳴らしている仁は、震えているルミナスを見下ろしていた。
「ああ、そんな、強すぎる・・・・」
「ああ?」
仁は自分の右耳に手を当てた。
「聞こえねーな。そういうことはな。もっとはっきり言えや」
「ひっ、強すぎますぅ」
「お前が何者か知らないが。俺はおかげで学校に遅刻する羽目になったぜ」
「うう・・・・」
仁は木刀を床に投げ捨てた。
「た、助けて・・・・」
「自分の意思で学校に遅刻するのは構わないが。人のせいで学校に遅刻するのは腹が立つぜ」
「お願いします。助けて・・・・」
「お前の綺麗な顔を殴るのは、流石の俺でも心が痛むぜ。よし。顔以外をボコボコに殴るか」
「うあああああ」
その日、仁は高校に行かなかった。代わりにボーイソプラノの悲鳴が夕方までずっと鳴り響いていたという。良かった良かった。




