フィオナとパルフェ
「あの二人、山の方に向かっていますね」
「ああ、まさか両方魔族か?」
「いえ、男性の方からは魔族の匂いは感じませんでした。少女の方が怪しいですわ」
「シグマってことはあるか?」
「形状は他のシグマと違いますね。何だか人間に見えますし、肌が白い所を見ると、ダークエルフではないようですね」
アベルとフィオナは同じく山奥へと入って行くと、二人が小屋の中に入ったのを確認して、すぐに自分達も小屋の周りに隠れた。
「どうする気だ?」
「私が行きます。アベル様はこの旨を、ルカ様に伝えて下さい」
「待てよ。女の子を置いて、俺一人で帰れって言うのか?」
「お願いします。それが先決なんです。偉そうなこと言いますが、今のアベル様より私の方が魔力も実力も上です。なのでお願いします」
「ちぇ、分かったよ」
アベルは山を降って行った。一人残ったフィオナは小屋の側面に体を隠し、様子を伺っていた。運が良いことに、男の方が手に猟銃を持って、小屋から出て行くのが見えた。どうやら、狩りか何かに行くらしい。少なくとも30分は帰って来ないだろう。
「今ですね」
フィオナは小屋の戸をゆっくりと開けた。中は薄暗く、床が僅かに湿っていた。内部は予想よりも広く、テーブルや火鉢が置いてあった。彼女が一歩踏み出した瞬間、屋根の上から異様な殺気を感じ、思わず見上げると、紫色の長い髪をした少女が、爪を突き立てて、フィオナ目掛けて落ちて来た。
「あ・・・・」
フィオナは素早くバック転すると、スカートが捲れるのも気にせずに、少女の顔に蹴りを浴びせた。
「ぐう・・・・」
少女はテーブルに突っ込むと、すぐに立ち上がった。
「あなたは・・・・」
「僕はパルフェだよ」
パルフェはフィオネに向かって鱗粉を浴びせようと試みたが、翼が無いことに気付き、顔を青くしていた。
(マズイな。翼を千切ったのは失敗だったかな)
「あなたは魔族ですね?」
「そうだよって言ったらどうする?」
「可哀想ですが、始末させて頂きます」
「悪いけど、僕は死なないよ。せっかく幸せを見つけたんだから」
パルフェは体を丸めると、そのまま床を蹴って天井に向かって回転した。そして天井を両足で踏み、バネ代わりにすると、フィオナに飛び掛かった。
「呪文・ダイヤミサイル」
フィオナはパルフェに向かってダイヤミサイルを放った。パルフェの体に何本もの氷柱が突き刺さり、そのまま床の上に倒れた。
「ヴェノム・ウォッシャーの原液」
パルフェは自分の手の甲に爪を突き刺すと、中から出た紫色の液体を、フィオナに向かって跳び散らせた。
「くっ・・・・」
パルフェは後ろに避けると、テーブルの下に隠れた。液体は椅子の足に掛かると、ドロドロと椅子の素材を溶かしていた。
「はあ・・・・はあ・・・・」
フィオナはテーブルの下に隠れた状態で、目の前の椅子を蹴飛ばすと、それをパルフェにぶつけた。そしてパルフェがよろけた隙に立ち上がると、フィオナはパルフェを床に押し倒して馬乗りになった。そして掌をパルフェの顔面に向けると、ダイヤミサイルを放った。
「はああああ」
ダイヤミサイルが発動するよりも早く、パルフェはフィオネの鳩尾を殴ると、彼女の頭を掴んで床に叩き付けた。
「あぐう・・・・」
「死ね」
パルフェは爪をフィオナの首に突き刺して、毒液を彼女の体内に注入しようとした。
「パルフェ、今帰ったよ」
正に止めを刺そうとしたその時だった。ウルスが猟銃と猪の死骸を片手に小屋に戻って来た。パルフェは素早くフィオナの首から爪を引き抜くと、隣にあった物置に気絶したフィオナを押し込んで、そのまま物置の戸を閉めた。




