パルフェの恋と、動き出すアベル一行
パルフェは青年によって小屋の中に連れて行かれると、そこでシチューをご馳走になった。青年の名前はウルスというらしく、親は幼い頃に事故で亡くなっており、頼りにしていた祖父も去年に死去、今は一人で、この先祖代々から受け継いだこの山を守っているらしい。
「君のことを聞かせて?」
これが、ウルスの口癖だった。自分が話すこともあるが、人の話を聞くのが彼は好きだった。
「僕は・・・・」
パルフェは思わず俯いた。何を話せと言うのか。自分は魔族から生まれた魔物で、人類の敵だと宣言すれば正しいのか、パルフェには分からなかった。ウルスはパルフェをじっと見つめると、その小さな白い手をそっと握った。
「え?」
手の温もりというものを知らないパルフェにとっては、大変なカルチャーショックだった。ウルスはパルフェの雰囲気から、パルフェが孤独であることを何となく知ったのである。そして自分と重ね合わせていた。
「君は一人なのかい?」
「そうだね。僕は一人・・・・」
パルフェはその日、ウルスの家に泊まった。二人は次の日もその次の日も、一緒に暮らしていた。ウルスはパルフェのことをあまり聞かなかったし、パルフェも多くを語らなかった。
「パルフェ・・・・」
「ん、何さ?」
ウルスはパルフェの肩を掴むと、パルフェの唇を突然奪った。あまりに唐突だったので、パルフェはウルスを突き飛ばしたが、ウルスは再びパルフェの肩を強く握ると、強引に自分の方に引き寄せて、柔らかなパルフェの髪を撫でながら、その小さな唇に、自分の唇を押し付けた。
「んん・・・・」
パルフェは手足をバタつかせていたが、やがて抵抗するのを止めて、ウルスのしたいようにさせるようになった。ウルスはパルフェの水晶のようなつぶらな瞳と、白い雪のような肌が好きだったし、照れたパルフェの姿は毎日見ていても飽きなかった。
ある夜、二人は抱き合って一つの布団で眠った。それは性行為だとか、そういう類のものではない。純粋に互いの存在想い、体を密着させることで安心感を得ていた。ウルスはパルフェの小さな体を全身で包み込むように抱き、パルフェもウルスを頼りに体を預けた。
次の日、ウルスはパルフェを連れて山を下りた。月に一回、食料を買いに町に出るのが、彼の習慣だった。ウルスはパルフェの手を握ると、町の住人達に声を掛けられ立ち止まった。
「おい、ウルス。お前どうしたんだよ。彼女か?」
昼間だと言うのに、顔を赤く染めて酔っぱらっている中年男に茶化されて、決まり悪そうに笑っていた。
「ええまあ、そんなところです」
ウルスは照れ臭そうに言うと、チラッとパルフェの方に眼を合わせた。
「僕、彼女になれたんだ・・・・」
パルフェは耳まで赤くして俯いていた。
「パルフェ、僕が彼女と言った時、嫌がらなかったね」
「ふふ、僕はね。お嫁さんになるのが夢だったんだ。だからついね・・・・」
「お嫁さんって。け、結婚するのかい。この俺なんかと」
ウルスは沸騰寸前だった。彼はパルフェから眼を背けると、自分の頬を何発か叩いて落ち着かせた。そこに、二人の男女が通り掛かった。
「おい、フィオナちゃん。見てみろよ。あれカップルかな」
アベルとフィオナは、正面で惚気ているカップルとすれ違った。フィオナは通り過ぎた後に、パルフェの方を見て振り返った。
「あの娘、何か様子が変ですね」
「どういうことだ?」
「魔族の匂いがするのです。念のために確かめてみますか」
フィオナとアベルは近くの物陰に隠れた。




