ゼウスの成長
「エリア4のコロニーが破壊されたか」
ゼウスはノーランドによって破壊されたコロニーの一角を、そこのシグマ達から発せられた信号のようなもので察した。彼は本を閉じると、自分の足元に転がった餌の残骸を足で退けていた。
餌となった人間達は、空気の抜けた風船のように皮が薄く延ばされており、厚みの無い紙のようであった。
「そろそろ。私の知性に付いて来れる高等なシグマを生み出すか」
ゼウスの元、ただ餌を集めるだけだったシグマ達に、人間のような役職が与えられていた。一つは兵士シグマ。これはコロニーが襲われた際に戦う。コロニーを守る役目を担っている。そして給食シグマ。これは今までのシグマ同様に、人の集まる場所に向かい、餌となる人をコロニーまで運ぶ仕事を担っている。偵察シグマは、所謂監視役で、怪しい人物がコロニーに近付いて来ないか監視する役目を持っている。
「私一人で全てを把握するのは無理になって来たな。そろそろ、隊長シグマを造るか。高い知能を持ち、シグマ達を統率できる者をな」
ゼウスは全身に力を込めた。そして背中の肉が大きく盛り上がると、その中から二つの卵が飛び出して来た。それは丁度、人間の幼児ぐらいの大きさを誇っていた。
「生まれよ。新たなる私のための生命よ」
卵の一つにひびが入り割れた。両手と両足を丸めて出て来たソレは、150センチほどの身長があり、紫色の髪を肩まで伸ばし、また白い雪のような色の肌をしており、今までのシグマとは全く異なる姿をしていた。それは人間の少女にも見え、瞳は大きくクリっとしており、口も鼻も小振りだった。背中には紫色の毒々しい翼が生えている。また黒いドレスを身に纏っており、翼が無ければ人間と見分けがつかないようだった。
「良いぞ。貴様には名前をやろう。貴様の名はパルフェだ。良いな」
「はあ・・・・はあ・・・・」
パルフェはしばらく呼吸を荒げて苦しそうにしていたが、すぐに顔を上げて、周囲の様子を観察し始めた。
「僕はパルフェ?」
「ほう、人の言葉を・・・・驚いたぞ」
「ゼウス様。僕に名前を付けて頂きありがとうございます」
パルフェはペコリと可愛らしく頭を下げた。すると、隣にあった卵にもひびが入り割れた。
「もう一匹生まれたか・・・・」
もう片方のシグマは、筋肉隆々としたシグマで、体色は緑で全裸だった。敢えて例えるならばオーガのような姿をしている。パルフェよりもゼウスに似ていた。
「貴様の名はゴルゴンだ」
「はっ、名前を付けて頂きありがとうございます」
ゴルゴンは片膝を突いて頭を下げた。
「貴様らにはこれから勝負をしてもらう。それぞれが均等な量の給食シグマを率いて、今から一週間以内に、どちらが多くの餌を集めて来るか。勝った方には褒美を取らせる。負けた方には・・・・」
ゼウスは一匹のシグマを呼び出すと、手刀でそのシグマの首を刎ねた。
「こうなる」
「はっ」
二人同時に返事をすると、早速勝負が開始された。




