もっと強くなりたい
飛行船に帰還したアベルとシェイミは兵士達に囲まれながら、事のいきさつを話していた。アベルがゼウスについて話し終えると、突然、シェイミがアベルの頬を平手打ちした。
「痛、な、何しやがる」
「馬鹿者」
シェイミは眼に涙を浮かべていた。
「おい、頬が赤くなっちまってる。止めろよ」
「お、お前は・・・・」
シェイミは手を降ろすと、両手で自分の顔を覆ってしばらく泣き崩れていたが、少し経つと、冷静になったのか、いつもの落ち着きを取り戻していた。そして傍らで不機嫌そうにしているアベルの方をチラッと見た。
「さっきは殴って済まない。あたしが怒ったのは。あたしを優先してシグマを仕留めなかったからだ」
「また、倒せば良いだろ。痛てて。まだヒリヒリしやがるぜ」
「ううん。それは難しい。奴らの恐ろしい所は学習能力にあるんだ。一度でも喰らった攻撃に対して、奴らは免疫を造る。つまり、一撃で仕留められなかった場合、次から同じ攻撃を喰らわせても、奴らにダメージを与えることはできなくなるんだ」
「そんな・・・・」
「もっと恐ろしいことに、その免役は全てのシグマに対して伝達されてしまう。つまり、別のシグマとの戦いでも、同じ攻撃は通らなくなる」
そこまで話し終えると、シェイミは椅子にもたれ掛かって天井を見つめた。
「あれは、あたしが幼かった頃の話だ。お前が部屋で見たあたしの肖像画が描かれたのと同じ頃だ。あたしには兄がいた。その兄は優しくて、あたしにとっては憧れの存在だった。結婚するのなら、兄のような男性が良いとさえ思った。しかし、そんな兄がある日、突然急死した」
「何言ってんだよ。お前・・・・」
「黙って聞け。あたしの兄は熱心な研究家だった。王子でありながら、学者になりたいと言っていた。そんな彼はシグマについて研究していたんだ。そして研究の途中に、シグマの封印されている場所に友人と立ち入り、シグマの一体を蘇らせてしまった。兄は即死だったそうだ。シグマは兄の頭部をムシャムシャと食い潰したんだ。あたしはそれからシグマについて研究を始めた。二度とあのような悲劇を起こさないために」
「待てよ。研究ってどうやったんだ?」
「本を見ただけよ。でも、もっと恐ろしい事実がある。それは兄と一緒にシグマを蘇らせた友人は、グリード王国の王、サドラーだったの。あいつは兄を誑かしてシグマを捉えるための囮に使った。それが許せなくて。あたしはシグマを根絶やしにしようと心に誓った」
飛行船がディタールに到着すると、シェイミはさらに歩きながら話を続けた。
「あたし達はもっと強くならなくてはいけない。これから、あなたに付いて来て欲しい場所がある」
「オイオイ、強くなるって、修業でもするのか?」
「そうね。それに近いことをするわ」
「待て待て待て待て。俺は勉強が嫌で大学を止めた男だぜ。コツコツと努力何てできねぇよ」
「残念だ。お前好みの麗しい女性の元に案内してやるのに」
「え?」
アベルの目付きが変わった。急に身を乗り出すと、シェイミの方に顔をグイッと近付けた。
「女性が修行をしてくれるのか?」
「ああ、そうだが、お前は努力が帰来なんだろ?」
「待て。女性がいるなら別だ。それに、へへへ、修業といっても、昼だけじゃないだろ。もちろん夜の修業も・・・・ぐへへ・・・・」
「涎が出てるぞ。気持ち悪いな。来るのか来ないのか?」
「行く」
即答だった。




