ディタールへの道
軍事国家グリード。その王室に傷だらけの兵士が一人帰還した。
「申し上げます。我が陸軍部隊が全滅致しました。グルグ隊長も消息不明です」
兵士の掠れた声が城内に響き渡っていた。そこにサドラーが現れ、玉座の上に座った。
「既に次の手を打ってある。海軍部隊を出陣させた。しかし、あのグルグ達を倒すとはな。これは面白くなりそうだ」
アベルとシェイミ-は荒れた山道を歩いていた。ここはデビルマウンテンと呼ばれ、その名の由来も形状が悪魔が口を開いているように見えたからという、短絡的な理由で名付けられていた。
「はあ・・・・はあ・・・・中々に辛いな」
「でも、ここを越えれば、今日の夕暮れにはディタールに帰れるわ」
「ところでよ。どうして王女様が牢獄にいたんだ?」
「それは秘密よ」
「秘密ってお前・・・・」
「乙女の秘密だ。あたしはお前を完全に信用しているわけじゃない。言えないことだってある。でも城に着いたら、上手い物だって食べさせるし、家だってやる」
「そうかよ・・・・」
しばし無言で歩く二人だったが、突然、シェイミが木に手を突いて立ち止まった。
「どうしたシェイミ?」
「後ろだ」
シェイミはアベルの頭を掴むと、そのまま一緒に地面の上を転がった。二人の立っていた場所に手裏剣が飛び、木に突き刺さった。
「何だ。一体何だってんだ」
「グリードの暗殺者達か・私達を殺しに来たな」
木陰から次々と、緑色の迷彩服を着た兵士達が飛び出して来た。
「全く、国王も人が悪い。海軍を山に派遣するとはな。魔道士に剣を握らすようなものだ」
顔に痛々しい縫い跡を付けた男が、ニヤニヤと笑いながら姿を現した。
「俺の名はサンザ。海兵隊隊長」
サンザは自己紹介を終えると、剣を構えたが、それよりも速く、彼の腕にムチがグルグルと巻かれた。
「何・・・・?」
「少し痺れてろ」
シェイミはムチに力を込めた。同時にサンザの体に電流が流れ、彼は黒こげになると、そのまま山から落ちてしまった。
「な、何だよ今のは・・・・」
「サンダー・ライト・スネーク。雷の魔法をムチに込めて、あいつの体に流し込んだ。剣に魔法を込める魔法剣の応用編よ」
司令塔を失った兵士達は一目散に逃げ出した。
「強そうなわりに呆気無かったな」
「そうね。でもまだ序の口・・・・」
歯切れの悪いシェイミの言い方に、アベルは舌打ちすると、近くにあった木を思い切り蹴った。
「おい、俺に話してくれ。お前の目的は何だ?」
「良いわ。さっき、あたしを置いて木に隠れようとしなかった、あなたの姿に免じて教えてあげる」
シェイミは背中を大木に預けると、ゆっくり口を開いた。
「グリード王国は、ある生物を匿っているの。その生物は世界に災厄をもたらすと言われている。あたしはディタール軍の兵士を派遣し、グリードに調査に向かわせたの。そこで、兵士達は殺されたの。グリードにではなく、グリードが匿っているという生物によって、その生物は強く、真空中でも生きていける無敵の存在。あたしは調査に向かわせた兵士達に本当に悪いことをしたと思った。そこで、罪滅ぼしのつもりで、単独でグリードに忍び込んだ。でもね。その生物を見ることはできず、兵士達に捉えられ、奴隷として地下牢に連れて行かれた。そうして一年が経過した時に、あなたが現れたのよ」
シェイミは呆然としているアベルに、一枚の紙切れを渡した。紙切れにはこう書いてあった。
「世界に闇が現れん時、必ず光が現れる。世界に光が現れる時、必ず闇が現れる。これを光闇の法則と言うなり」
「あたしの次の目的は勇者を探し出すこと、世界に危機が訪れている今、きっと光が何処かにいるはず」
「勇者ってお前・・・・」
「おとぎ話じゃないわ。勇者はいる。絶対にね」
その後、シェイミの予見通り、日没を前に二人は山を越えた。そしてディタールの城下町に辿り着くと、見張りをしていた二人の兵士が眼を丸くした。
「ひ、姫様。まさかご無事だったとは・・・・」
国内ではシェイミは死亡扱いだったらしい。無理もないとアベルは思った。何せ、一年も消息を絶っていたのだ。
「城内へどうぞ。ところで、その者は?」
兵士がアベルを訝しく見つめていた。
「この男は私の御付きの者で、名をアベルという。どうか丁重に扱って欲しい。ところでお父様は?」
「実は・・・・」
二人の兵士は互いに顔を見合わせて、バツが悪そうにしていた。その雰囲気から嫌なものを感じ取ったシェイミは、二人を押し退けて城内に入ると、すぐさま、王室に向かって走り出した。
「おい、シェイミ・・・・」
「アベル様は申し訳ありませんが、こちらの部屋でお待ちください」
アベルは二人に半ば連行される形で、小部屋の中に押し込められた。
「くそ、茶ぐらい出せよ」
アベルは小さな椅子に腰掛けると、壁に飾ってある絵を発見した。そこには青い髪を腰のあたりまで伸ばした、天真爛漫そうな少女が満面の笑みを浮かべている。見ているだけで温かくなるような表情だった。
(これって・・・・)
しばらく無言で絵を見ていたが、その絵の人物が誰なのか考えてみると、それは明らかにシェイミにそっくりだった。今の不愛想な彼女からは想像も付かない姿に、彼女の妹ではないかと、アベルは判断した。
「アベル、ここにいたか」
シェイミが小部屋に入って来た。彼女は疲れ果てたような表情で、アベルの反対側の椅子に座ると、大きく溜め息を吐いた。
「どうした?」
「お父様が不治の病らしい。長くて数か月の命だそうだ。お父様がご存命の内に帰って来れて良かった。感謝するぞ」
「俺にするなよ。お前が脱獄したんだろうが」
「いや、お前がいなければ脱獄なんてできなかった。あの時の短慮な自分を反省するよ」
「これからどうするんだ?」
「グリード王国に戦争を仕掛ける。あたしは引き下がれないんだ。あの国が抱えている物は、この世界を滅ぼしてしまう。やっぱり放っては置けない」
シェイミは立ち上がるとそのまま部屋から出ようとした。
「なあ、あの絵の女の子は誰だ?」
「ああ、あたしだよ」
「え?」
シェイミはそのまま部屋から出て行ってしまった。
「嘘だろ・・・・」
アベルは絵と今のシェイミの姿を見比べて、呆然としていた。




