牢獄の恋
奴隷達の仕事は非常に単純である。城の地下採掘所で、スコップ片手に穴を堀り、岩を削り、ひたすら鉱物を探すのである。カラーストーンの他、ダイヤモンドが出ることもあるらしい。
「おら、速く歩け」
兵士達がムチを振り上げて、奴隷達を怒鳴りつけていた。アベルも汚い布きれの服を着て、スコップで穴を掘っていた。すると、アベルの隣で、犬のように手で地面を掘っている女性と目が合った。
(何だ。メチャクチャ好みのタイプだぜ)
女性は20ぐらいで、アベルと同じように布きれの服を着ていたが、何処か高貴な雰囲気を放っていた。
女性の肌は白く、瞳はブルー、やや中性的な顔立ちで、ボーイッシュという表現が合っていた。髪は青いショートボブで、遺志の強そうな聡明な表情をしていた。それは、この泥沼のような環境でも、凛と輝いていた。
「大丈夫かい、お嬢さん。俺が手伝ってやるよ」
「ふん、余計なお世話だ。さっさとアッチへ行け」
女性は不機嫌そうにそう言うと、小声でブツブツと呟きながら、手で穴を掘っていた。
(へへへ、気の強そうなところも、俺の好みだぜ)
一人でニヤニヤしているアベルの肩を、優しく叩く人物がいた。振り替えると、色白の痩せ細った、見るからに鈍臭そうな、アベルよりも年下に見える青年が立っていた。
「誰だいあんたは。悪いけど、男と仲良くする趣味はないんだ。話し相手なら別の奴を…
「そうじゃない。オイラは忠告しに来たんだ」
「忠告?」
「ああ。あの女と関わるのはヤバいからな。アイツの名はシェイミといって、疫病神なんだ。アイツと仲良くした男は、皆、すぐに処刑されちまうんだ。原理は分からないけどよ」
アベルは男の言葉を鼻で笑った。
「お前さ、名前は?」
「オイラはポムだ」
「ポムか。俺はアベルらしい」
「らしいって?」
「それがさあ、ベランダから落ちたら、ここにいたんだ。きっとここはあの世なんだろうな。まあ、そんなことはどうでも良いが、忠告はありがたいが、俺は迷信は信じないタチでね」
アベルはポムと別れると、シェイミの隣に行き、わざと彼女に付いて作業していた。
「オイ、俺に構うな。邪魔だ」
「女の子が俺とか言っちゃダメだろ」
「何故、放って置いてくれないんだ?」
シェイミは迷惑そうにアベルを見た。アベルは溜め息を大きく吐くと、急に真剣な顔付きになった。
「お前、脱獄するつもりだろ?」
「な、何をバカな」
「さっき、手で穴を掘っていたが、あれは逆だったんだな。お前は穴を隠していたんだ。土を掛けて、なるべく平らにして
「証拠は?」
シェイミの声が震えていた。アベルは苦笑すると、当たり前だと言わんばかりの顔で、ニカッと得意気に言った。
「お前が埋めた土を触ってみたんだが、すごい柔らかかったぜ。どんなにカモフラージュしても、触れば分かるんだよ」
「何が言いたい」
「さっき聞いたんだが、お前と関わった男は、処刑されるらしいな。何故か。それはお前が色仕掛けで
釣った男に、脱獄用の穴を掘らせていたからさ。そんなリスキーなことをすれば、多かれ少なかれ兵士どもに眼をつけられるからな」
「オレを脅す気か?」
「違えよ。ただ、俺も仲間に入れて欲しいんだ。ここから出たい」
「良いだろう。しかし、死ぬかも知れないがな」
シェイミは、壁に空いている穴に指を入れると、一本の長い革製のムチを取り出した。
「オレの武器はこれだ。ずっと隠して置いた」
「用意周到だな」
「じゃあ、作戦は今夜決行だ。良いな?」
「ああ、後もう一つだけ頼みがあるんだが、俺のダチになった男で、ポムって奴がいるんだが、そいつも一緒に連れてって良いか?」
「あまり足が付くのは嫌なんだが、一人ぐらいなら良いだろう」
こうして、アベルとシェイミの脱獄計画が始まった。




