リオンVSギース
センは血を吐くとリオンの前で倒れた。幸い急所は外していたが、致命傷であることには変わりは無い。
「セン大丈夫か。僕のために・・・・」
「初めから引っ込んでいれば良かったのだ。中途半端な奴が飛び出して来るとロクなことにならんな」
「ギース、次は僕が相手だ。悪いが、ここで力を使い果たすわけにはいかない」
リオンは右手に力を込め、金色に輝く光の剣を発現させた。
(エドウィンが恐れていたのはこれか。しかし触れなければ良いのだろう・・・・)
「来い」
両者が正面で対峙した。リオンは剣を振り上げると、ギースに向かって突進した。
「ぬおおおお」
ギースは全身を震わせると、失われたはずの両手が切断面から生えた。そして、再生した手を軽く曲げ、動作を確認すると、そのまま地面を足で蹴り、リオンの頭上目掛けて飛び掛かった。
「死ねィ」
「くっ」
ギースの爪が、リオンの頭部を切り取らんと伸びた。ギースの予想では、リオンは体を後ろに引いて爪の攻撃を避けようとするはずだった。この後に魔王エドウィンとの戦いを控えている彼としては、無傷でここを切り抜けたいはずだ。そう思ったギースの期待はすぐに裏切られた。リオンは何と、避けるどころか、自らギースに近付くと、彼の額に思い切り頭突きを喰らわせたのだった。
「ぐおお・・・・」
思わぬ一撃を受け、ギースは一瞬よろめいた。しかしそれこそが彼の命取りとなった。彼の怯んだスキに、リオンは光の剣を振り上げて、ギースの右肩から斜め一文字に斬り裂いた。
「覚悟しろおおおおおお」
「こ、こいつ・・・・」
光の剣はギースの右肩を抜けて、彼の胸元で止まっていた。リオンは腕に渾身の力を込めて、そのままギースの体を真っ二つにしようとしていた。
(体が千切れる・・・・)
ギースは右手をリオンの脇腹に突き刺した。
「ぐうう・・・・」
リオンの顔が苦痛に歪む。しかし手の力だけは絶対に緩めなかった。いつの間にか、リオンの背後にはリリィ、レイナ、リンなどの将兵達がおり、彼の戦いを心配そうに見つめていた。
「リオン様。今助太刀します」
リリィは槍を振り上げると、リオンの元へと走って行った。
「ダメだ。来るな・・・・」
リオンはリリィにそう言うと、ギースの方を向いてニヤリと笑った。
「これは一対一の決闘だからね・・・・」
「律儀な奴だ。良いだろう。少しだけ認めてやる。だがな、俺から早く離れないと。お前の体に刺さっている俺の指が、お前の体内の養分を吸い尽くすぞ」
「ぐううう・・・・」
見た目以上にギースの体は強靭だった。一度は奥まで通った光の剣だったが、いくら力を込めても、彼の体を斬り捨てることができない。
「早く離せ。俺とお前は相性が悪い」
魔法には属性というものがある。火、水、風、土は基本属性と呼ばれ、魔法の中では最も下位に位置している属性である。その上に光と闇があり、さらに頂点には無がある。無とは別名「真空エネルギー」とも呼ばれ、あらゆるものを消滅させてしまう、闇よりも強大で深い宇宙に存在するエネルギーである。今回の場合、リオンは光属性で、ギースは闇属性であるので、両者ともに互いの力を相殺し合うという最悪の関係だった。
「このまま、お前から全てを絞り尽くしてやる」
ギースは右腕に力を入れた。リオンの体内にある彼の養分や生気を全て吸い尽くそうという魂胆であった。
「うああ・・・・」
(何だ。吸われているのか。体の力が抜けて行く。血とか肉とか、栄養や元気が、僕の体を構成する大事な物が失われていくような気がする)
リオンの手の力が徐々に抜けていった。同時にギースの体の傷が急速に治癒していった。
「攻撃と、回復を同時に・・・・」
「声に力が無いぞリオン。どうするのだ。逃げるか立ち向かうのか、早く選ばんと、このままミイラになるぞ」
「僕は、ああ。引き下がるわけにはいかないんだ・・・・」
リオンは左手に力を込めた。これは一種の賭けである。リオンの野性的な本能が、この危機に一世一代の大勝負に出たのだ。
「な、何をしている・・・・」
「うあああああ」
リオンの左手が金色に光り輝いた。光の剣を左手から発現させようというのである。既に光の剣は右手に握られているという状態で、さらにもう一本の光の剣を左手から出そうとしていたのだ。しかし一本出すのにも精一杯な光の剣を、同時に二本発現させることは可能なのだろうか。そんな疑問すら、彼は抱く余裕が無かった。
(一瞬で良いんだ。光の剣を出せれば。今、自由に動かせるのは、この左手だけだから・・・・)
「く、こいつの意思の強さは何だ。頭が悪いとかそんなレベルではないぞ」
「うおおお、左手頼む。一瞬でも良いんだあああああ」
空を引き裂くようなリオンの叫び。彼を取り巻く誰もが、その叫びに胸を打たれた。そしてそれは人間達だけではなかった。彼の祈りが天に届いたのか、届いていないのか。そこまでは定かではないが、彼の左手に小さな金色の輝きが見えたのだけは確実だった。
「何だと・・・・止めろ」
「こ、これだけで十分だ」
リオンの左手には金色に輝く、剣と呼ぶにはあまりに短い。所詮ナイフが握られていた。敢えて名付けるとすれば、光の短剣とでも言うのだろうか。彼はそれを血が出るほどに強く握り締めると、そのままギースの喉元にそれを突き刺した。




