反乱の獣達
山を越えて、草原を越えて、ついにディタールの軍勢はマリーンの土を踏んだ。吹く風が爽やかな潮風に変わり、ここが海に近いことが分かる。マリーンは別名海洋国家と呼ばれており、水軍の強さは三国随一と言われている。最もこの平和な時代では、その軍もパトロール程度にしか使われていないのだが。
「リオン様。あれがマリーンの城です」
リリィはマリーンの城下町を指した。マリーンは海の上に造られた人工的な小島の上に存在していた。海に囲まれているということは、外からの攻撃には鉄壁の強さを誇ることを示している。
リオン達はディタールにはない開放的な空気を楽しみながら、早速マリーン城内へと案内された。
「リオン様。ジャン王は堅苦しい挨拶や儀礼を嫌うらしいので、気を付けてください」
リリィがリオンにそっと耳打ちをした。ジャンは父の後を継いでマリーンの国王の座に着いたが、儀礼的な父を嫌っており、自分は民にも配下にも友人のように接しているらしい。
「ここです。リオン王」
マリーンの兵士が両開きの赤い扉を開けると、ジャンは玉座に座り、片肘を突いていた。その傍らには黒い甲冑に身を包んだナイトが立っていた。
「おう、来たかリオン王」
ジャンは立ち上がると、馴れ馴れしい態度でリオンの元へ寄って行った。すると傍らの黒いナイトが、ジャンを庇うように彼の前に躍り出た。
「おい、止めろ。客人に失礼だろ」
ジャンはナイトを押し退けると、リオン王に右手を突き出した。
「ああ、よろしくお願いします」
リオンは少し戸惑っていたが、そのままジャンと固く握手を交わした。ジャンは20代前半の、まだ血気盛んな若者で、何処か喧嘩っ早そうに見えたが、その瞳には強い意志が感じられた。ジャンは炎のように逆立った赤い髪をしており、耳には星形のピアスが付いていた。
「おい、ダークナイト。お前は下がって良いぞ。俺はこの人と話をするからな」
ジャンは黒いナイトを王室から出すと、リリィを始めとした彼の配下も、同じように王室から出した。そしてリオンと二人きりになると、彼は床の上に突然胡坐を掻いた。
「ふう、俺は堅苦しいのが嫌いでね」
「分かります」
リオンもジャンの隣に座った。王族が二人して床に尻を付けるなど、配下の者が見たら大騒ぎをしそうな光景である。
「リオン王よ・・・・」
ジャンはリオンの方をじっと見つめると、腰に付けた剣を引き抜いて、リオンの首筋に冷たい刃の先を当てた。そして鋭い眼光で彼をじっと睨み付けていた。
「逃げないのか?」
ジャンは、自分でも驚くほどの低い声で言った。リオンは能面のような無表情な顔で、ジャンを同じように睨んでいた。
「あなたは僕を試していますね?」
「ふっ、あなたは信用できる人のようだ」
ジャンは剣を引くと、元の人懐っこい表情に戻っていた。
「ジャン王は、見た目とは裏腹に疑り深い人のようですな」
「誰だってそうなるさ。何処に敵がいるか分からないからな。だから、あんなダークナイトを護衛に付けたんだ。それも大臣が強制的にな。俺は別に構わないのだが・・・・」
ジャンは立ち上がると、静かにリオンに背を向けて歩き始めた。
「カレン・スチュアート」
ジャンは女性の名前を口にした。それが誰であるかリオンには分からなかったが、彼は構わず話を続けた。
「カレン・スチュアートは、タータル族の族長の孫娘だ。かつてはマリーンに従っていたが、俺の代になってから、急に反乱を始めた。単刀直入に言うと、軍を率いて俺の国を攻撃して来やがったんだ。最悪なことに、あいつらは空から攻撃をして来る。マリーンは地上からの攻撃には、海があるので安全だが、空からじゃ、防ぎようがない」
「空・・・・?」
「タータル族は、古くからドラゴンと会話する能力を持っていた。奴らは人間で唯一、ドラゴンを手懐けることができるんだ。奴らはドラゴンを品種改良して誕生したドラゴノイドに乗って、空から攻撃を仕掛けて来る。ドラゴノイド自体は、ワイバーンとドレイクを足して2で割ったような生物だが、水軍しか持っていない俺達に、勝てる相手ではない。力を貸して欲しい」
「もちろんです。僕らはそのために来た。しかし空からの攻撃とは恐ろしいですな」
リオン達が王室にいた頃、カレンを先頭に、反乱軍がマリーンに対して攻撃を仕掛けようとしていた。
「早速、来たようだ」
ジャンは剣を引き抜くと、扉を足で開けて廊下に飛び出して行った。その後をリオンも続いた。




