今日から僕はマフィア?
少年は地面の上に抑えつけられると、男達のリーダー格と思わしき金髪の男に見下ろされていた。
「おい、小僧。死んでみるか?」
金髪はポケットからナイフを取り出すと、刃先で少年の右頬に縦線を引いた。その瞬間、少年は眼を閉じて叫んだ。
「助けてー」
同時に、少年の体からゴシック体の大きな文字が出現し、宙をフワフワと浮いていた。
「え?」
文字は「怖い」と書かれており、男達には見えていないようだった。
少年は無意識に念じると、「怖い」と書かれた文字が男達の体にぶつかった。
「おっとと」
男達は少しだけよろめくと、突然両手で頭を押さえて、地面の上にうつ伏せに倒れ込んだ。
「うわあああああ。た、助けてえええ」
「マ、ママ」
さっきまであれだけ偉そうにしていた男達が、突然全身から汗を拭きだしながら怯え始めたのだ。おかげで少年は助かり、その場から離れると、男達に見向きもせずに路地から抜けた。
「何なんだよ」
少年は路地から出ると、そのまま息を切らしながら、男達からなるべく遠い場所に避難しようと必死になっていた。しかし、エンドヒルズに安全な場所など無い。すぐに別の男と曲がり角でぶつかってしまい、再び彼に生命の危機が訪れたのである。
「おい、テメー」
「ひいい」
少年は体を強張らせた。男は金髪で後頭部をハリネズミのように尖らせていた。ヘビのような鋭い眼つきをしており、年齢は10代後半に見えた。
「お前、さっきフランキーの奴らを尾行していた妙なガキだな?」
「な・・・・」
少年は心底この町を恐ろしいと思った。自分が思い付きでした軽い行動が、知らない第三者にすでに知られているのだ。
「ちょっと来てもらおうか」
「い、嫌だ」
「嫌だと言われても、無理やり連れてくがよ」
男は全身から金色のオーラのようなものを纏った。こいつは只者ではない。少年はそう思った。
「喰らいな」
次の瞬間、少年の顔が男のストレートで吹っ飛んだ。そしてそのまま地面の上を転がると、気絶してしまった。
「手間取らせやがって」
少年は男によって、瓦礫を積み上げてできたような簡素な建物の中にいた。石造りのベットは冷たく固く、すぐに彼は眼を覚ました。
「うああ・・・・」
目の前の光景が渦巻き状になっていた。さっきとは別の男の声が少年を完全に覚醒させた。
「おい、起きろ」
「ひい・・・・」
少年はガバッと起きると、早速辺りを見回した。部屋の中には5人の男女がおり、それぞれ年齢も全く異なるようだった。
「紹介するぜ。俺の名はナイツ。この町を占めているマフィア、ジャックポッドファミリーのボスだ」
ナイツと名乗った男は、金髪で薄い眼鏡を掛けており、マフィアとは思えないほどに理知的で端正な顔立ちをしていた。年齢的には20代後半といったところだ。彼は落ち着いた声でメンバーを紹介し始めた。
「お前を連れて来た男はアッシュという。地下格闘技のチャンピオンだ。そしてその隣にいる赤い髪のロングヘヤーの女がキャサリンだ」
キャサリンは見た目的に20代前半で、黒のタンクトップを着ており、ノースリーブな上に胸が非常に大きかったため、目のやり場に困った。やや化粧が厚い気がしたが、美人なので問題は無いと、少年は何故か納得していた。
「そしてベレー帽を被っている女がレヴィアタン。まだ14のガキだが君よりは年上だろ?」
「は、はあ・・・・」
「そして最後が、あの奥にいる男キーラだ」
キーラは名前を呼ばれると、ニコッと少年の方を向いて手を振った。彼は黒のボサボサの髪に、両耳と舌の上にピアスを付けていた。何とも奇抜な格好をしていたが、長身で何処か紳士的な雰囲気の持ち主だった。
「何故、俺にそんなことを?」
「そうだったな。事情を説明するのを忘れていた。君がさっき喧嘩を売った相手が、実はフランキーファミリーという、隣町のマフィアでな。君を殺すと言っている。本来ならば見捨てるところだが、俺達はフランキーファミリーに抗争を仕掛けたいと思っている。そこでだ。君が我々の仲間になれば、奴らと闘う口実ができるのだが・・・・」
ナイツの提案に、少年の体は恐怖で強張っていた。あんな出来心での行動が、こんな大事になるなんて想像もつかなかった。
「どうする?」
「どうするも何も。断ったらどうなるんだ?」
「断ったら、君を野に放ってやる。しかしフランキーファミリーに狙われたら。まず一週間と生き延びられないだろうぜ」




