危ない奴ら
少年はコンクリートのような白い石に囲まれた小部屋に連れて行かれると、修道女は木のテーブルの上に、パンとベーコン。そしてカップに紅茶を注いで、彼の前に並べていった。
「さあ、おあがりください。粗末な物ですけども、飢えよりはマシでしょう」
「あんた、どうして俺にこんなこと・・・・」
「あなたの瞳が私に似ているからですわ。こんな肥溜めのような町でも、あなたの眼は輝いている。きっと、あなたはこんな所に燻っているような人ではない」
「それは大袈裟だよ。大体、あんただって、この町には似合わないぜ」
修道女は少年の言葉に一瞬、顔を赤らめて嬉しそうにしていたが、すぐに真剣な表情に戻ると、突然テーブルの上の料理を全て蹴り飛ばして、テーブルの下に隠れてしまった。
「おい、何してんだあああ?」
「し、静かに。外を御覧なさい。ゴロツキがいます。彼らに見つかってはいけない」
「ゴロツキ?」
少年は窓と呼ぶにはあまりに不格好な、部屋の隙間から外を見た。そこには屈強な体付きの男達が、手に斧や槍などを持って、町の中を縦横無尽に横断していた。
「はあ・・・・はあ・・・・。危なかったですね」
修道女がテーブルから顔を出すと、すでに少年は部屋の出口にいた。そしてニコッと修道女の方を見て微笑んだ。
「お姉さん。名前は?」
「私ですか。私はシャロンです」
「そうかシャロン。ちょっと待ってて。俺がもっと美味い物を持って来てやる」
少年は得意気に言うと、そのまま部屋を出て、先程のゴロツキの後を付けて行った。
少年はゴロツキ達を見失わないように、慎重に尾行していた。
この町はエンドヒルズという。国家から爪弾きにされた人間達が集まる法無き世界である。ここでは常に喧嘩や殺しが絶えず、町中は瓦礫と糞尿に塗れていた。
「見つけたぞ」
少年は瓦礫に背中を付けて隠れると、屈強な男達が何やら取引をしているのを見ていた。彼は男達のポケットのふくらみを見て、それが金であることを直感したのだ。だから、それをかっぱらってやろうと、彼らの後ろを付けていたのである。
「なあ、アレは持って来たんだろうな?」
「ああ、もちろんだ」
男達はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら、何かをぼそぼそと相談し合っていた。しばらく少年が見入っていると、男の内の一人がそれに気付いたらしく、少年の方を向いて叫んだ。
「おい、そこで見てる野郎。出て来やがれ」
少年はオズオズと男達の前に姿を現すと、その表情には笑みが含まれていた。
「何が可笑しい?」
「可笑しくないよ。別に」
少年はふと、地面に落ちている鏡の破片に映る、自分の顔を見た。瞳の色は紫色で、肌は白く、体付きも華奢だった。目鼻立ちがしっかりしていたが、眼は眠そうに半開きで、何処かツンとしているような印象を受ける。少年と少女の間を取るような中性的な容姿をしていた。
「オラ、ガキ。生意気そうな面しやがって」
少年の容姿は女性からすれば可愛いのだろうが、男性からすると、世の中を達観しているかのような顔に見え、生意気な印象を与えてしまうようだ。
「こいつ、小さいクセに、俺達を尾行しやがったのか」
少年のか細い腕が、男達に掴まれ、今にも千切れてしまいそうだった。
「放しやがれ」
少年は凄んでみたが、この姿では説得力が無い。寧ろ相手をより増長させるだけだった。