終わりの始まり
決着は着いた。仁はマーカスの母親である老婆を倒すと、倒れているマーカスに馬乗りになっているレンを発見した。
「おい、レン?」
「蛆虫、蛆虫、蛆虫、このゴミ虫」
レンの両手が真っ赤な血に染まっている。仁は溜息を吐くと、レンの両手首を掴んで、頬を思い切り打った。
「痛あ」
「レン、そこまでだ。こいつはもう死んでいる。終わったんだ」
「ああ・・・・そう・・・・」
レンは無関心な態度でそう答えると、拳を降ろそうとした。するとマーカスの体が一瞬ビクッと揺れた。
「待って、こいつまだ生きてる」
レンは再びマーカスに馬乗りになろうとした。しかし仁がそれを止める。
「落ち着けって。まあ、仲間を殺されたんだ無理は無いが、死人を殴っても手が痛むだけだぜ。あまりに呆気ない死に方に、こちらとしてはどう心に踏ん切り着けりゃ良いのか、分からんがな」
仁達はグリーンヒルズの町に帰った。その後、エイリアンのトップに君臨する男、アレイスター・S・スペクターは、仁の所属する機関の者達によって拘束され、全ての悪事を話した後、牢獄内で老衰で死去した。残りの幹部もバラバラになり、エイリアンは表向きは壊滅した。最も、この世に光がある限り、闇があるのも事実である。エイリアンは今後も名前を変え、手段を変え、生きて行くのだろう。そしてレンも仁も、それが肥大化するまでは気付くことすらできないのだろう。それが世の常であり、理なのだから。
「仁さーん」
メイド服のままレンが、外を歩く仁を呼び止めた。彼の手には金色に輝くゴールドオーブが握られている。
「ガイアに帰るんだ。まあ、3日間だけだがな。お前を連れて行けなくて悪いが、注文があれば聞くぜ。東京ラーメンとか言うなよ」
「ううん。そうだ。カップラーメンならどうです。お湯ならこの世界にもあるし」
「ああ、そうだな」
仁はそのままゴールドオーブを使って、ガイアへと繋がる扉を出現させた。そしてそのまま、扉の中に入ろうとすると、背後から鼻の啜る音が聞こえたので、思わず後ろを振り返った。
レンは両目から涙を流していた。そして泣いているのか笑っているのか分からない顔で、仁に手を振った。
「大げさだぜ。今生の別れみたいによ」
「うう・・・・」
仁は意地が悪い。レンの心中などとっくに察しているのだ。だからこそ、本当は最初に言うべき事柄を、このタイミングで彼女に告げた。
「天界の連中に脅しをかけてみたんだがよ。お前、もう身分隠す必要なくなったから、ガイアに帰れるぜ」
「え?」
レンは眼を丸くした。仁はニヤッと息子を見る父のように温かいまなざしで、レンを見ていた。
「後、男の肉体に戻るには1年掛かるから、それまではここにいろよ」
「はい」
レンは泣き腫らして赤くなった顔を手で拭うと、元気良く仲間達の元へと走って行った。
第4章完結