メルトダウン
ケビンは立ち上がると、フワッと体を宙に浮かせた。両足が地面から離れ、全身に金色の光の膜を張っていた。何かをしようとしている。仁はレン達を後ろに下がらせると、自分だけ、ケビンの元にゆっくり接近した。
「何する気だ。テメー」
「俺は知らないぜ。俺の三つ目の人格を目覚めさせたら、俺にもウィリアムにも止められない」
「何が言いたいのか、はっきりしろや」
「焦っているだろ。俺だって怖いんだ。マーカスの野郎を面に出すのはな。最も、元々はマーカスこそが主人格だったがな。野郎は面倒臭がりだから、厄介なことを俺やウィリアムに任せて、滅多に動かねぇ。それはガキの頃から変わらなかったがな」
ケビンは眼を閉じると、何かに向かって話し始めた。その相手がマーカスという人物であることは言うまでもないだろう。
「おい、聞いているか。俺達じゃ手に負えない相手だ。たまにはテメーが仕事しろや。そろそろ交代してくれ」
ケビンが言い終えると、それに応えるかのように、彼の全身に正体不明の力が入り、ヒクヒクと血管が筋肉に浮き出て来た。肌は白くなり、背が僅かに伸びる。髪の色が金色から白色に変わり、眼の色も青から赤色に変化していた。仁は今まで、多重人格者を何人か目撃してきたが、見た目まで変わるというのは、彼の人生で初めてのケースだった。
「くそ、マジかよ。おい、皆下がってろ」
仁は叫びながら、自分も少し後ろに一歩進んだ。気迫というのだろうか。ウィリアムからケビンへの変化よりも、遥かに凄まじい跳躍だった。
「ふううううう」
ケビンではなくなったソレは、突然甲高い声を出して空を見上げていた。そしてゆっくりと顔を正面に向け、仁達の顔を一人ずつ、じっくりと観察した。そしてニコッと微笑んだ。まるで少年のような快活で清純な表情をしていた。
「やあ、僕がマーカスだよ。久しぶりに人と話すんで、少しだけ緊張しているんだ」
マーカスは仁の前に立つと、彼に右手を差し出した。
「仲良くしようよ」
「テメー、イカれてるのかよ」
「僕は正常さ。最近人恋しくなっただけさ」
マーカスは少年のような澄んだ瞳をしており、それが却って彼の異常さや不気味さを如実に表していた。
「僕を倒そうだとか、捕まえようだとか考えるのは止めた方が良い。これ以上、僕の邪魔をするなら、僕の能力。メルトダウンを発動せざるを得なくなる」
「メルトダウンだと・・・・?」
「僕は帰るよ。君達には用が無いしね」
「俺達は用があるんだよ」
仁がマーカスの胸倉を掴もうと、一歩前に出た。しかしマーカスの体はフワッと、仁から離れると、そのまま煙のように何処かに消えて行ってしまった。
「野郎、何処に行きやがった・・・・」
「仁さん。ひとまず帰りましょう。ここにいると反吐が出そうになります」
マックスは気分悪そうに言った。仁もその意見に賛成のようで、黙って頷くと、そのままウィリアムの家から退却した。