くたばれオランウータン
壁の穴に入った仁とレンは、その先に続くウィリアムの書斎に辿り着いた。
「さっき、日記を見つけた場所ですね
「ああ、オランウータンの野郎、デカイ図体して、何処に隠れたんだ」
「もし、アイツの腕でオレらが殴られたら、どうなりますかね」
「想像するのも恐ろしいぜ。あの柱を見た後だとな」
レンは音を立てないように、ゆっくりと床の上を歩いた。朽ち果てた木の上では、いくら気を使っても、ミシミシという音が響いてしまう。
「仁さん、アイツいませんね」
レンは仁の方を振り向かずに言った。仁からの返答はない。
「ちょっと、無視しないでくださいよ。」
レンは後ろを振り向いてそう言うと、さっきまで背後にいたはずの、人の姿が消えていることに気付いた。そして、彼の立っていたはずの床に穴が開いていることも。
「う、嘘だろ?」
レンは思わず穴に耳を近付けると、オランウータンのことも忘れて、大声で叫んだ。
「仁さーん」
仁は穴の下の物置部屋におり、そこでオランウータンと対峙していた。
「くそ、下から引きずり降ろすなんざ、随分やってくれるじゃねえか」
物置部屋は障害物が多く、また部屋自体の面積故に、身動き取るのは難しかった。
「あばあああ」
オランウータンは床を右拳で殴り付けると、そのまま床を歪曲させた。
「や、野郎」
仁はバランスを崩し、体を大きく前のめりに傾けてしまった。オランウータンはその隙に、仁の顔面目掛けて、強烈なストレートを放った。
仁は無意識に両手をクロスさせると、それでオランウータンのパンチを防ごうとした。
(マズイ。両手で奴のパンチを受けるのは危険だ)
オランウータンのパンチが、仁の手首に炸裂した。衝撃で仁の体が背後に吹き飛び、木箱に背中から激突した。
「はあ…はあ…」
仁は手首に付けていた、金属製の腕時計を見て溜息を吐いた。
「クソ、せっかくガイアから持ち込んだマラックスの腕時計を壊しやがって」
マラックスの時計は、オランウータンの能力により、渦巻き状に捻曲がっていた。
「仁さん」
扉の向こうからレンの声が聞こえる。扉を両手で必死に叩いているが、物置部屋に通じる扉は、オランウータンの能力により、歪曲され、開かなくなっていた。
「どうやら、万事休すみたいだな 」
仁は自分の服のポケットに手を突っ込むと、金色に輝く羽を取り出した。
「ハーピーの羽だ」
仁はそれに向かって念じると、先程、仁をここに引きずり降ろすため、オランウータンが開けた穴から、上の階に飛んだ。