密室の死闘
仁とレンは台所を飛び出し、廊下の壁に背を付けた。奇妙な静寂とともに、人間にしては大きすぎる人影が、壁に映っていた。
「おい、ウィリアムの野郎、この家で何を飼ってやがるんだ」
「人じゃないよね」
「ああ、番犬注意の看板が見えたが、もっとヤバい獲物がいるぜ」
仁は壁から体を出すと、忍び足で廊下の突き当たりまで歩いた。寝室の方から、荒い鼻息の音がする。ゆっくり顔を出して見ると、茶色い毛皮の、人型の生物が、胡座を掻いて、夢中で何かを貪っていた。
「嘘だろ。ありゃ、オランウータンだ」
仁は引き返すと、レンに手招きして、自分の背後に付かせた。
「ほれ、こいつを持っときな」
仁はレンに金色の、何かの羽を渡した。
「これは?」
「ハーピーの羽根だ。こいつを持ったまま、行きたい場所の風景を思い浮かべれば、好きな所に一瞬で移動できる。ちなみに東京とか、大阪みたいな、次元を超えてガイア世界に行くことはできないからな」
レンはハーピーの羽をじっと見つめた。すると突然、彼女の体がフワッと浮き上がり、天井に思い切り後頭部をぶつけて、そのまま床に落下した。
「あたたた」
「おい、何してんだ。ハーピーの羽を無駄に使いやがって」
「んなこと言われても」
レンの立てた音にオランウータンは、ビクッと体を震わせた。
「最悪だ。今の音でオランウータンが、俺達に気付きやがった。ぶちのめすしかないみたいだぜ」
「ご、ごめんなさい」
レンはしょんぼりと頭を下げた。
「おい、来るぜ。離れろ」
仁とレンは隠れていた壁から、後ろに飛び退いた。同時に、その壁を突き破ってオランウータンが現れた。
「あぱあああ」
オランウータンは拳を振り上げると、レンに向かって殴り掛かって来た。
「当たるかよ」
レンは砕けた壁の破片を殴り付け、その場に板の柱を作った。オランウータンのパンチが柱に炸裂し、柱をぐにゃぐにゃに曲げてしまった。
「あぱああああ」
オランウータンは痛かったのか、殴った手を押さえて、近くの壁に体ごと体当たりした。そしてそのまま、壁を突き破り、何処かに退去した。
「何て怪力だ。オレのプリンスで作った柱が、まるでソフトクリームみたいに渦巻きの形に変形してる」
「いや、これは怪力じゃない。あのサル野郎の超能力だ。殴ったものをぐにゃぐにゃに曲げちまう能力」
レンと仁はオランウータンの壊した壁に近付くと、恐る恐るその中に入って行った。