ウィリアムの家
レンとフローラ、そしてマックス、仁の四人は、クーガからポーカーで勝ち取った地図を片手に、ウィリアムが住んでいるという、彼の自宅前にいた。
「ああ、緊張しちゃうね」
「お前達は付いて来なくても良いんだが・・・・」
ウィリアムの家は、まるで人を寄せ付けないように、壁一面黒く塗りつぶされていた。家は木で作られており、所々朽ちて、少し触るだけで崩れ落ちてしまいそうにも見える。また、家の周りには黄土色の雑草が生えっぱなしで、足首の辺りにまで伸びていたし、草むらの中には、番犬注意の看板が斜めの状態で、土の上に辛うじて刺さっていた。
「まるで、黒いペンキを上からぶっかけたみたいな家ですね。仁さんどうします?」
「全員で入って全滅と言うのも間抜けな話だ。フローラとマックスはここに残れ、俺達が30分経っても出て来なかったら、ここから離れろ。良いな?」
仁の言葉に、マックスとフローラはしぶしぶ頷いた。
「さて、行くぞ」
「はい・・・・」
仁とレンは、ガラガラと玄関の扉を横に引いて、黒い家の中に入って行った。
家の中は黴臭く、外壁同様、様々な場所が朽ちて劣化していた。恐らく、ウィリアム自身もここに長居する気は無いのだろう。組織の追手がもう来ないことを確信したら、もっと良い場所に引っ越すつもりだと考えられる。
「うわっちょ・・・・」
レンの足元の床が抜けて、彼女は思わず転んでしまった。
「おいおい、静かにしろよ。あいつが寝てたらどうするんだ」
「んなこと言っても・・・・」
レンは仁に手を引っ張ってもらい立ち上がると、机の上に置いてある赤い本を発見して、思わず手にして開いた。
「見て下さいよ仁さん。ウィリアムの奴、日記なんてつけてますよ。ちょいと見てやろうかな」
レンは興味本位で、ウィリアムの日記をペラペラと捲っていた。そこには自分がかつて所属していた組織「エイリアン」を裏切ったことへの想いや、愚痴めいたことが書いてあった。
「ちょいと見せてくれ」
仁はレンから本を取り上げると、レンと同じように素早く斜め読みをしていた。
「こいつ、一定の周期で筆跡が大きく変化しているぞ。まるで別人だ。見ろよ。ここは丸っぽくて、まるで女が書くような字だが、こっちのページは、荒々しくて、まるでガキの落書きだ。ひょっとすると、こいつ、ニ重人格者かも知れん」
「あ、本当だ」
「こいつの目的は、組織の金とエヌだったらしいな。実にシンプルな動機だ。組織の持つ莫大な金を見ているうちに、組織に多大な利益をもたらしたエヌを発見した自分への報酬が、あまりに少ないのを見て、腹が立ったのだろう。事実、エイリアンはエヌを使って、自分達の手駒となる能力者の類を増やしていただろうしな」
仁は本を机に戻すと、今度は台所の方に向かって歩き始めた。
「そう言えばお前には話していなかったが、エイリアンのボス、つまり組織の長の名は、ジェームズ・S・スペクターという男で、かつてお前の父の部下だった男だ」
「え?」
「俺は面識が無いが、スペクターはかなり古い時期から、お前の父、ギース・ブラッドに仕えていた。スペクターは超能力は持っていないが、非常に頭が良くてな、所謂天才ってやつだった。スペクターは事業に成功し、エイリアンを設立し、資金の面でお前の父親をサポートしていた。最も、ギースがその気になれば、金なんぞ無くても、力で奪えばどうとでもなるがな。スペクターは、部下のウィリアムの発見したエヌをギースに渡して、彼を超能力に目覚めさせたばかりか、エヌを飲ませて生み出した超能力者達を、彼の部下になるようにと派遣していた。俺が高校生の時に闘った連中は、皆、エヌによって能力に目覚めた奴らだった」
仁はレンと一緒に台所に行くと、食べかけのパンや、飲み残しのコーヒーなどを余さずチェックして回った。
「とにかくだ。スペクターは高齢で、もうヨボヨボの爺さんだが、問題はデカくなり過ぎた組織の方だ。そして負の遺産であるエヌと、ウィリアムと言う男。奴をどうにかしないとな」
仁は飲み掛けのコーヒーカップを持ち上げると、それを突然背後の壁に向かって投げつけた。同時に、何かがカサカサと動く音が聞こえた。
「な、何すか?」
「誰かいた。それも人間じゃない。くそ、ウィリアムの野郎。番犬とか言っていたが、本当に何かをこの家で飼ってやがるな」
仁とレンは台所から出ると、互いに背中を引っ付き合わせ、部屋中を見回した。