ストリップポーカー決着
レンとクーガのラストゲームが始まろうとしていた。レンはカードを1枚だけ交換すると、そのまま眼を閉じて、自分の手札を机の上に置いた。
「どういうつもりかな?」
「これで良い・・・・」
「思考停止とは、僕が一番嫌うタイプの闘い方だ。まあ良い。僕も最高の手ができた」
(ハートの5,6,7,8,9のストレートフラッシュだ。これで終わらせてやる。どうせお前の手札なんて、ブタかワンペア、ツーペアーが関の山だろう。それともフラッシュかな?)
両者の最後の役が出来上がった。いよいよ互いのカードを公開する時が来たのである。
「はあ・・・・はあ・・・・」
レンの呼吸が荒くなった。その姿を見て、クーガは心の中で笑っていた。
(馬鹿な奴だ。たとえ、自分の役が弱いとしても、そんな絶望感に溢れた顔をされたら、ブラフで僕をドロップさせることもできないじゃないか。もう終わりだな。しかしつまらんゲームだった。ひたすらカードを配って受け取るだけのね。ポーカーは心理戦こそが醍醐味だというのに・・・・)
クーガは机の上に堂々と自分の手札を置いた。そしてチラッと周りの様子を見た。マックスとフローラは絶望感に溢れる顔で、机の上を見ていた。
「ううう・・・・」
レンは低く唸ると、震える手でカードを机の上に裏向きで出した。カードは汗が滲んで角が曲がっていた。
「君は立派に闘ったよ。まあ、初心者にしてはよくやった方さ」
「ああ・・・・」
レンはそのままじっと裏向きのカードの束を見ていた。クーガはイラついたように机を思い切り叩いた。
「さあ、見せてくれ。僕のストレートフラッシュに劣る君の役を」
「本当に見るのか?」
「当たり前だ。この役より強い役は限られている。君が僕と同じストレートフラッシュを作れるとは思っていないし、その分だと、カードの役も覚えていないんじゃないか?」
「ああ、初めてだからな。同じカードが2枚でワンペア、3枚でスリーカード。二枚ずつでツーペアってのは分かる」
「あははは、じゃあ差し詰め、ブタのカードかな。何も揃っていないんだろ?」
レンは深く溜息を吐くと、やれやれと首を横に振った。そしてカードを一枚ずつ表にした。
「そうだよ。お前の言う通り、俺のカードは1枚も合っていない」
カードが1枚ずつ表になって行く。10、A、J・・・・。
「さあ、全部見せろ」
「クソが・・・・」
Q、Kの2枚が表向きになった。
教室内が騒然とする。レンは眼を閉じた。
「ほら、ブタだろ?」
「な、何がだ・・・・」
「え?」
レンは首を傾げた。ポーカーを同じ数のカードを集めるゲームだと勘違いしていた彼女には、それが何を示すのか気付くまで、時間が必要だった。それに対してクーガは顔を真っ青にして、椅子を思い切り蹴り上げた。
「クソが、クソ、クソ、ああ、何てこった。全部ダイヤじゃないか。その上、よりによってストレートにしやがって」
悔しがるクーガをさておき、マックスが出て来て、レンの耳にそっと口添えをする。
「あのな・・・・。お前の作った役はブタじゃないんだよ。寧ろその逆かな?」
「逆?」
「ああ、最強の役だぜ。はっきり言って奇跡に近いがな。ビギナーズラックってやつか?」
「だから何なんだよ」
「分からない奴だな。こういう役をな、ロイヤルストレートフラッシュと言うんだよ。このアホが」