ストリップポーカー
ウィリアムは塗炭の露出した簡素な狭い一室の中にいた。部屋内はカーテンで閉め切られており、昼間だというのに闇に包まれていた。これも、彼が組織からの追手を畏れている所以なのだろう。息を殺して、カーテンの端から、外の景色を覗いていた。
(恐れる必要は無い。すでに手は打った。組織からの刺客は私が直々に相手をするとして、レン達は、レン達の学園の奴らに始末させれば良い)
ウィリアムはそのまま、部屋の奥の暗がりへと消えて行った。
エンシャント学園にて、レンとフローラは屋上で昼食を食べ終えて教室にいた。男子達は廊下を走って鬼ごっこをしていたし、女子達は教室で他愛の無い話を楽しんでいた。
「それでね」
フローラが両手でジェスチャーを交えながら話していると、レンはそれを見て笑っていた。いつもと同じ平和な昼休みの風景であるが、突然、そこに彼女らの平穏を乱す存在が現れた。
「やあ・・・・」
一人の青い髪をした、端正な顔立ちの男子がレンとフローラの前に現れて、近くの席から適当な椅子を拝借し座った。
「何だ。何か用か?」
「二人とも暇そうだね?」
男子は馬鹿にするように言うと、ポケットから小さな箱を取り出して机に置いた。
「ん?」
レンは箱についているシールを剥すと、それの中身を取り出した。
「これは・・・・」
中身はトランプだった。誰もが一度は使用したであろうトランプは、異世界にも関係無く存在しているらしい。
「少し遊ばないかい。これで」
「ふうん。暇つぶしにはなりそうだけど。ババ抜きでもするの?」
「あはははは。まさかね。僕はポーカーしかしないよ。君とサシでやりたい」
レンはフローラの方をチラッと見ると、トランプを箱に戻して男子に投げ返した。
「悪いけど、三人でしないのならお断りだよ」
「そうかい」
男子は物静かな声で言うと、そっとレンの耳元で一言呟いた。
「ウィリアムの情報を教えてやろうと思ったが、どうやらいらないらしいな」
男子の言葉に、レンの体が思わず強張った。男子は依然として冷静な表情でレンとフローラを交互に見つめている。
「テメーは刺客か・・・・?」
「まあ、そうだね。僕は先日、ウィリアムという男から素晴らしい力を手に入れたんだ。そのお礼に、君らを始末しようと思ってね。僕の能力はトランプをしないと始まらないのさ」
「じゃあ、残念だったな。当てが外れたってパターン?」
男子の笑みが消えた。そしてグイッとレンの顔に、自身の顔を近付けると、ポケットから地図を取り出して、一瞬だけレンの前で開いてみせた。
「もし、僕とゲームして勝てたら、ウィリアムの住んでいる家の地図をやるよ」
「そうかい。だったらお前から無理矢理奪ってやる。ゲームなんてしなくてもね」
レンは手に持っていた鉛筆をナイフに変えると、それを男子の首筋に当てようとした。その時、レンのナイフの刃先が、何者かによって止められた。何と男子を守護するかのように、銀色の体色をした、まるで金属のような固い人型の、生物とは思えない無機質な物体がそこにいた。
「紹介するよ。僕の能力。パニッシュメントだ」
パニッシュメントは人の形をしていたが、眼は顔の中央に一つだけあり、カメラのレンズのように赤く不気味に光っていた。そしてカシャンカシャンと金属音を立てながら、ナイフを両手で潰してしまった。
「さてと、どうするかな。僕に攻撃できるのはゲームだけだよ。暴力による攻撃は、パニッシュメントが許さない」
「へん、じゃあやるよ。その代わり勝った時は覚悟してもらう」
「くくく、もちろん約束は守るさ。そして、ただのポーカーでは面白くない。負けるごとに互いの衣服を脱ぐストリップポーカーなんてどうかな?」
「悪趣味な奴」
「ありがとう」
青髪の男子はトランプをパニッシュメントに渡すと、パニッシュメントは凄まじい勢いでカードを切り始めた。