表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生サーガ~異世界勇者録~  作者: よっちゃん
第4章 レン編
179/243

ラブトリップ

 レンはコロンコロンを飛び出すと脇目も振らずに走っていた。どういう理屈なのか分からないが、喋ること、書くこと、全て「好き」になってしまう。

「好き、好き、好き」

 レンは道行く人に愛の告白をしながら走り続けると、今度は曲がり角の所で、反対側から歩いて来るミーシャと激突した。


「ああ、痛」

 ミーシャは両手に本を山積みで抱えていたため、それらを全て路上にぶちまけてしまった。レンは内心焦りながらも、そのままミーシャーと反対方向に逃げようとした。

「ちょっと、待ちなさい」

 ミーシャの眼が鋭くなっていた。

「人にぶつかって置いて、そのまま帰る気なのかしら。普通は落ちた本を拾うわよね」

「・・・・」

「何とか言いなさいよ」


 こんな時に面倒な奴と当たった。レンの顔がどんよりと下を向いていると、ミーシャの機嫌はさらに悪くなった。彼女は散らばった本を早々に拾うように、レンに向かって喚くのである。


「ちっ」

 レンは無意識に舌打ちをした。

「今、私に舌打ちしたわね。自分が悪いくせに・・・・」

(何で舌打ちはできるんだよ・・・・)

 レンは心の中で悶絶していると、口を開かないようにゆっくりと落ちた本を拾い始めた。

「最初から、素直にそうしていれば、私に怒られずに済んだものを」

「・・・・」


 レンは全ての本を拾い終えると、それをミーシャに渡して、その場からクルリと背を向けて立ち去ろうとした。ミーシャはそれを見て、自分の丹念に手入れされた黒髪を靡かせながら、さらにレンの名前を呼んだ。


「・・・・」

 レンはこれでキレたというか、怒りをも超えた形容し難い感情に襲われて、思わず自分のことも忘れて、ミーシャの方を向いて大声で叫んだ。

「好きー」

 レンは内心しまったと思い、自分の口を両手で塞いだが、時すでに遅く、ミーシャはレンから視線を外して、一人で何かを考え込んでいた。


 レンはそれを見て、そっとミーシャの前から離れようとしたが、すぐにミーシャがレンの方を振り向いて言った。

「レンさん?」

「・・・・」

 レンは何も言わない。というよりも言うことができない。

「ふふふ、照れているのかしら?」


 ミーシャはニコッと微笑むと、ゆっくりとレンの元に近付いて来た。レンは思わずギュッと眼を閉じてしまった。そんな彼女をミーシャは両手で抱きしめると、耳元でそっと囁いた。


「良いのよ。私もあなたのことが好きだったの。好きだったから辛く当たっちゃうのよね」

「好き・・・・」

「分かってるわよ。もう聞いたからね。それよりもあなたの髪、良い匂いがするわね」

「・・・・」


 真実を告げられないもどかしさに苦しむレンの前を、先程のコロンコロンにいた女性客が横切り、ニヤッとレンを見て笑った。


(野郎・・・・。あいつが黒幕か)

 レンはミーシャに抱きしめられているので、体を自由に動かせない。しかし彼女には攻撃の手段があった。

 レンはミーシャに気付かれないように、自分のポケットから財布を取り出した。本来はあまりやりたくないのだが、背に腹は代えられない。レンは財布をトンカチに変化させて、女性に向けて投げた。


「ぎゃ・・・・」

 女性の悲鳴とともに、レンの体は憑き物が取れたかのように解放された。

「あら、何かしら?」

 ミーシャが悲鳴の聞こえた方を振り向くと、レンはトンカチを拾って、それを財布に戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ