「好き」としか言えない
レンとフローラはコロンコロンのカウンター席で、二人でコーヒーを飲んでいた。
「それでさ、結局どうなったの?」
「ああ、ミーシャ先輩も超能力者だったらしい。それとオレ達を攻撃して来た海パン野郎は、エンシャント学園を退学した奴で、この学園に復讐がしたかったんだって。そこをウィリアムに唆されてエヌを飲んだ。あいつ、オレ達を仕留めるために、エンシャントの生徒達を狙って、自分の仲間に引き入れようとしているみたい」
「それって怖いよね。だって、今が幸せなら、復讐だなんて考えないもの」
「うん。人の不幸を餌にしているウィリアムはもっと許せないけどね」
レンはコーヒーをグイッと一気に飲み干すと、ふと、自分の背後の席を振り返った。彼女の丁度真後ろには、本を片手に、午後のティータイムを楽しむ女性の姿があった。
女性は見た目20代から30代の前半に見え、特に美人というわけではないが、色気のような、何となく男を引き付けるようなオーラーを持っていた。
「あら・・・・」
女性は本を閉じると、レンの方を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。レンは思わず照れて、前を向き直し、コーヒーカップに口を付けた。
「ところで、レンちゃん。お仕事はいいの?」
「うん。日頃頑張ってるから、今日は休んでも良いって、エスティーさんが言ってた」
レンはコーヒーを飲み終えると、従業員特権でお代わりをもらいに行こうとした。その途中、先程の女性の隣を抜けて、カウンターに行くのだが、その途中で、何か、木の枝のような物に、脚を刺されて、思わず前のめりになってしまった。
「わっとと」
レンは転びそうになりながらも、近くのテーブルに手を突いて何とか耐えると、近くにいた女性に阿多を下げて、カウンターの奥に行った。
(ラブトリップ。発現しなさい)
女性は本を閉じると、そのまま店から出て行った。
しばらくして、レンは満タンのコーヒーカップを片手に、フローラの元に戻って来た。
「ああ、レンちゃん。おかえり~」
「好き」
「え?」
突然、レンはコーヒーを置くよりも速く、フローラに向かってそう言った。
「今、何て?」
「す、好き・・・・」
レンは困惑したように言うと、酷く取り乱していた。
「好き、好き好き好き」
「レンちゃんたら。そんなに言わなくても聞こえてるよ」
フローラの頬がポッと赤くなっていた。そしてレンの手を両手で握り、自分の頬にそっと当てた。
「私もね。レンちゃんのことが大好き。可愛くって凛々しくて、女の子なんだけど、時に男の子みたいに大胆・・・・」
「好き~」
レンは突然、席から離れると、紙と鉛筆を持って戻って来た。そしてフローラの顔と紙を見比べながら、素早く何かを書き込んで、フローラに見せた。
「レンちゃんたら・・・・」
「好き?」
白い紙には、黒い文字で「好き」と書かれていた。フローラはいよいよ本気にし、レンの肩に顔を付けて甘えて来た。一方のレンは何か様子がおかしかった。