ミーシャ先輩は気が短いその2
ミーシャはレンの体を強く抱きしめると、そのままゆっくりと唇を離した。
「ぷはあ、い、いきなり何するんでしゅか?」
「あら、あまりの驚きに舌足らずになっちゃって、可愛い」
フローラはミーシャの前に割り込むと、レンの両肩を掴んで、激しく前後に揺さぶった。
「ちょっと、先輩に何されたの?」
「キスされた。しかも舌まで入れられて」
「にゃにいいい」
フローラは眼を渦巻きのように回転させると、そのまま泡を噴いて倒れてしまった。
ミーシャは水の中に手を突っ込むと、突然血相を変えて、レンの方を見て叫んだ。
「危ないわ。離れて」
ミーシャはレンの体を掴むと、彼女を押し倒しながらその場から離れた。それとほぼ同時に、水の中心に渦巻きのような物が発生し、それが間欠泉のように噴き出すと、マックスの顔にぶつかり、彼の額を割った。
「ぐ・・・・」
マックスは額から血を流しながら、後ろに倒れると、それを見てクラス中がパニックに陥った。
「嫌ああああ」
女子は叫び、男子も腰を抜かしていた。叫びを聞き付けた仁は、倒れているマックスを背負って水辺から離れた。
「おい、どうして攻撃が分かったんだ?」
レンは陸地の方に走りながら、ミーシャの方を見た。彼女はレンの顔を見ずに無言で走っていた。
「やましいことでもあるんじゃ・・・・」
「私を疑っているのね」
「そりゃそうさ。あんな現象、どうやって予想すると言うんだ」
「ふん、せっかく助けてあげたのに、酷い言い草ね。それならば良いわ。証拠を見せるから」
ミーシャは立ち止まると、突然、何を思ったのか。再び水辺の方に向かって走り出したのだった。
「な、何してる?」
レンも思わずミーシャの後を追い掛けた。彼女は一足先に水辺に辿り着くと、岩の上に座り、足先を水の中に付けた。それとほぼ同時に、水の中に先程と同じ渦巻きが発生し、彼女の顔を目掛けて間欠泉が噴出した。
「危ない」
レンは落ちている小石を掴んでクッションに変えて、彼女と間欠泉との間にそれを投げた。
間欠泉がクッションにぶつかり、その反動でミーシャは岩場の方に吹っ飛んだ。レンはそのうちに彼女の所に行き、彼女を引っ張って水辺から離れた。
「危ないだろ。はあ・・・・はあ・・・・」
「あなた、今何かしたわね。まさか、あなたも・・・・」
ミーシャはレンの顔をじっと見つめると、突然、彼女を両手で抱きしめた。
「嬉しいわ。私を助けに戻って来るなんて」
「それはいいからさ。早く離れないと」
「そうしたけど、今の衝撃で足を挫いちゃったのよ」
「ええ?」
ミーシャはレンの腕を掴み、自分の背後に座らせると、先程、レン達がいた場所を指した。
「じきに敵の正体が分かるわ。私の能力、ホッピングキュートでね」
突然、水の中から、海パン姿の少年が飛び出して来た。そしてそのまま、岩場の方に突っ込むと、岩に尻をぶつけ、何かに跳ね返えったかのように、空に向かって跳び上がり、何度も地面の上で跳ねていた。例えるならば、床に向かってスーパーボールを投げつけた時と同じような結末だった。
「ホッピングキュート。私が触れたものは、弾力を持つようになる」
「せ、先輩。まさか・・・・」
「ええ、あなたも不思議な力を持っているのね。私もよ。物心付いた頃から、この力を持っていたわ」
(ウィリアムのエヌを飲んだわけでは無いのか・・・・)
レンはミーシャの横顔を見ながら、襲撃して来た男を捕まえた。