ミーシャ先輩は気が短い
レン達は、あと一歩というところでウィリアムを逃してしまった。彼は今後、さらに警戒を強めて慎重になり、平穏なグリーンマイルの中で、さらに能力者を量産していくのだろう。そして少しずつ、平和ボケした人間達に罰を与えるかのように、無垢な人々の心を恐怖で蝕んで行くのだろう。
話は変わって、いくら敵が身近にいるといっても、学生である以上、毎日学校に通わなくてはならない。レン達からすれば退屈な学校生活であったが、今日だけは違っていた。
「よし、全員集まったな。これから課外授業を始める。今から3時間の間に、岩場にいるザリガニとか魚をカゴに入れて捕まえるんだ。一番多く捕まえたクラスが優勝だからな。じゃあ行くぞ。よーいスタート」
仁の掛け声とともに、生徒達が海岸の岩場に向かって、一斉に走り出した。今日は課外授業ということで、エンシャント学園中等部の面々は、町外れにあるダイヤモンド海岸に来ていた。今日は一日、2年生と3年生合同で、自然を尊びながらの自然観察会を行う予定である。レンとフローラ、そしてマックスは同じ班なので、協力して岩場の魚を捕まえようと必死だった。
「おい、フローラ、カゴ持てよ。俺が捕まえるから」
マックスは膝を捲って水の中に入ると、水の中を泳いでいるナマズを両手で捕まえようと、手を伸ばしていた。
「なあ、マックス。聞きたいことがあるんだけど・・・・」
マックスの背後でレンが、日差しに眼を細めながら言った。
「何だ?」
「お前、超能力者何だってな」
「ああ、だが今は関係無いだろ」
「いや、関係あるよ」
レンはマックスの手を掴んで、じっと見つめた。照れているのか、彼の顔は赤くなっていたが、レンはそんなことを気にしない。
「能力は?」
「ビートダウン。熱とか炎を操る能力だ。火の玉を掌から飛ばしたりできる。だが、別にどうでも良いだろ。俺は生まれつきこんな力を持っちまって後悔してるんだ」
「別にお前のことをとやかく言うつもりはないけどさ、仁さんから聞いたかも知れないけど、ウィリアムって男がこの町に潜伏している。きっと、俺達を倒そうと、色んな能力者を送り込んで来ると思う」
レンはヒソヒソと音量を小さくしながら言った。
「何だよ。怖いのか?」
「違う。今ここに、ウィリアムの送り込んだ刺客がいるような気がするんだ。言葉じゃ上手く言えないけど、今までの経験ってやつかな?」
「ふん、安心しなって。俺が守ってやるからさ」
マックスは笑いながらレンの方を優しく叩いた。
「あら、あなた達、全然魚が捕れていないじゃない?」
話し込んでいるマックスとレンの隣から、スッと黒い漆黒のような髪を腰まで垂らした、透き通るような白い肌をした女子生徒が現れて、二人にニコッと微笑んだ。
「ミーシャ先輩」
マックスは急に借りて来た猫のように、姿勢をピンと真っ直ぐに正した。隣にいるレンはそれを眠そうに見守っている。
「あら、あなたは見兼ねない顔ね」
「あ、オレ、じゃない。私は先月からこちらに転入したレンと言います」
「そうなの。お人形さんみたいで可愛いわね。ちょっと失礼」
ミーシャはレンの頬を両手で優しく挟むと、突然、彼女の唇に自分の唇を押し付けてキスをした。
「んん・・・・?」
「んん・・・・ちゅ」
ミーシャがレンの首に手を回して、がっちりと固定した。近くで見ていたマックスやフローラは思わず石像のように固まってしまった。無論、関係無い周りの生徒も大体同じような反応をしていた。