バーストショット
ウィリアムは仁から離れると、近くの路地にしゃがみ込んで呼吸を整えた。
「何てことだ。顔を覚えられたかも知れん」
ウィリアムは肩で息をしていた。そんな彼の前に仁が現れて、彼の前に立ちはだかった。背の高さは仁の方が僅かに上で、必然的にウィリアムのことを見下す形になっていた。
「おい、お前。何故逃げるんだ?」
「はあ・・・・はあ・・・・忙しいんだ。これから仕事でね」
「仕事か。昼休みはとっくに過ぎているがな」
「職業によって昼休みの長さだって違うだろ」
「一つ聞きたいことがあるんだが」
仁はポケットから手帳を取り出して、ウィリアムに向かって問い掛けた。
「俺はある人物を探していてな。そいつはウィリアムという名で、あんたと同じような金髪の若い奴だ」
「私はそんな男は知らない・・・・」
仁はパタッと手帳を閉じると、それを胸ポケットに仕舞った。
「俺は一度も男だなんて言ってないぜ。若い奴を探しているとは言ったがな」
「ぐうう・・・・」
ウィリアムの顔が蒼白になり、仁から一歩後ろに下がった。
「別にお前を最初から怪しんでいたわけじゃないさ。金髪の若い20代ぐらいの男に、片っ端から当たってたんだ。10人目にしてようやくってとこか」
「何てことだ。せっかくこの町でやり直せると思ったのに・・・・」
「悪いことをしてるんだ。そのリスクも背負う覚悟はあったはずだ」
「フフフ。確かに。とっくの昔に危ない橋を渡っていたからな。だが、私は余性豊かに過ごして見せる。今、君をここで消せば済む話だ」
ウィリアムの顔の血色が戻り始めていた。彼の口元がヘの字に歪んだその時、仁は嫌な殺気を感じて、思わず後ろに跳びのいた。
「私から離れたのは良い判断だったな。どうやら、かなり熟練した経験の持ち主らしい。そんな強敵を今のうちに消せるなんて、私はツイているな」
「何・・・・?」
仁がウィリアムに殴り掛かろうと、一歩踏み出したその時だった。仁の右肩が突然発火し、彼の体が大きく右側にバランスを崩した。
「かは・・・・」
仁はそのままうつ伏せに倒れると、上から見下ろす、ウィリアムの顔を睨み付けていた。
「バーストショット。私の能力だよ。空気中に含まれる酸素を発火させる能力。無敵だと思わないかい?」
「テ、テメー。何故、エヌをグリーンマイルの中で流通させようとした?」
「流通などさせる気は無い。私は仲間が欲しかったのだ。君達よりも恐ろしい存在が私を追って来ている。そいつらを一人で相手にするのは骨が折れるのでね。超能力者をこの町で育てようと思ったんだ」
ウィリアムは笑いながら言うと、立ち上がろうとする人の右足を発火させた。
「ぐああああ」
「無駄だから止めておけ。話の続きになるが、私を追っている組織のことは君も知っているだろう。エイリアンさ。かつて私が散々奉公してきた組織が、今私に牙を剝いている」
「はあ・・・・はあ・・・・。何故テメーは組織を裏切った。報復というリスクは考えなかったのか?」
「考えたさ。しかしだね。元々エヌは私が発見した成分から生まれた薬だ。人の脳に直接作用し、未知なる才能を開花させる魔法の薬。しかし奴らは、私に敬意を払うどころか、薬を真っ先に独占しようと画策していたんだ。私利私欲のためだけに動く連中とはやっていけないな」
ウィリアムは仁の頭部に手を向けた。
「今から君の頭部を燃やし尽くす。最後に言いたいことはあるかね?」
「言いたいことか。それなら、テメーの後ろにいる奴に聞いてもらうことにするぜ」
「後ろだと?」
ウィリアムが背後を振り向こうとしたその時、彼の後頭部に強い衝撃が走った。何か重たい物で殴られたようだ。
「がは・・・・」
ウィリアムは歩道の上にうつ伏せで倒れた。彼の背後にはハンマーを持ったレンが立っていた。
「大丈夫ですか仁さん・・・・」
「ああ、平気だ」
レンは仁に肩を貸すと、気絶しているウィリアムの方をチラッと見た。
「これからどうします?」
「とにかく、こいつを機関の留置場に連れて行って、尋問だな。上手くやれば、芋づる式にエイリアンの内部に潜り込めるかも知れん」