表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生サーガ~異世界勇者録~  作者: よっちゃん
第4章 レン編
173/243

その名はウィリアム

 レンはいつも通りに、コロンコロンで働いていた。休日であれば朝から、学校の日は放課後に毎日働いている。


「はい、コーヒーです」

「おう」

 仁は手帳をペラペラと捲りながら、レンの出したコーヒーを一口飲んだ。

「仁さん、何ですかそれ・・・・?」

「大事な情報が入っている手帳だ。俺は機関という組織に属していてな。ここに教師として赴任したのも、機関からの命令なんだ。その機関から連絡があったのだが、どうやら俺達の倒すべき敵は、意外に近い所にいるらしいぜ」


 レンは他の客に注文を取って、仁の席に戻って来た。

「え、何ですか?」

「この町でエヌを配り、様々な能力者を生み出している犯人は、グリーンマイルの何処かに住んでいる。名前はウィリアム・ペインという。かつて、ある巨大組織に属する幹部だったが、欲に目が眩んだのか、その組織を裏切り、組織が作っていた薬品エヌを盗み、この町に逃亡して来たんだ」

「そんな危ないのがこの町に・・・・」

「ああ、考えるだけで恐ろしいぜ。ウィリアムの元いた組織は「エイリアン」という名で、売春から違法薬物の売買まで、この世で一般的に悪と呼ばれる行為を総なめにしている、いわば犯罪グループだ。ウィリアムは内心ビビっているはずだぜ。エイリアンから、奴へ報復しようと、追手が世界各地に派遣されているんだからな。あいつがグリーンマイルみたいな、片田舎を選んだのも頷ける」


 仁はそれだけ告げると、コロンコロンを出て行った。レンは仁の残した、飲み掛けのコーヒーを片付けると、窓の一人席に座っている、金髪の見た目、20代後半に見える男に、注文を取りに行った。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「ああ、カフェラテのショートサイズを一つ」

「かしこまりした」

 レンはエスティーのいるカウンターに入って行った。


 金髪の男は仁の座っていた席を睨み付け、小さく溜息を吐いた。

(何てこった。私のことが何故知れ渡っているんだ。見たところ、あのメイドも私のことを知っているようだし、組織の奴らでは無いみたいだが、あの男の持っていた手帳は気になる)

 金髪の男は貧乏ゆすりをしながら、落ち着かない様子で窓から見える、銅像公園の噴水に視線を向けていた。


「カフェラテです」

「ああ、ありがとう」

 男はカフェラテの入ったカップを受け取ると、ゆっくりとそれに口を付けて舌を濡らした。

「はあ・・・・はあ・・・・」

「お客様大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。仕事がハードでね。疲れているんだ。それよりも、さっきの態度の悪い客は常連なのか。コーヒーも飲み掛けだ」

「気にしないでください。うちの学校の先生です」

「ほう・・・・」


 レンはそのままカウンターの中に戻ると、男はカフェラテを置いて、思わず唾を呑んだ。

(あの娘から、追手の情報を聞き出すのは不可能だ。下手をすれば、私が怪しまれてしまう。あまり目立つ行動はしたくないのだが、こんな田舎では、組織の連中もいないはずだ。あの男を始末し、証拠の手帳も燃やしてしまおう)


 男は会計を済ませて店を出ると、銅像公園のベンチに腰掛けている仁を発見し、後ろからゆっくりと近付くことにした。


(落ち着くのだ。ここで焦れば全てが台無しだ。せっかく組織から逃亡し、これからこの町で、新たな人生を始めようというのに、こんなことで終わってたまるか)

 男は足音すら立てない勢いで、公園の柵を乗り越えると、仁の座っているベンチの真後ろに立った。

(私の能力で、一発で仕留める。そして手帳も奪い取る)

 男の右手に力が入った。そのまま仁の首に手を回そうと伸ばしたその時、突然、仁の手が男の顔を殴り付けた。

「ごふ」


 男は柵を破ると、そのまま歩道に投げ出された。そして顔を押さえて小さく唸った。


「げほ、げほ・・・・ううむ」

 仁は立ち上がると、柵を乗り越えて、倒れている男に手を出した。

「悪いな。反射的に殴っちまった。でもまあ、あんたも俺の背後に立つから責任はゼロじゃないがな」

「ああ、平気さ。済まない」

 男は仁の手に触れず、自力で立ち上がると、フラフラと仁から距離を取った。


「おい、顔色悪いぞ。病院に行くか?」

「いや、結構だ。放っておいてくれ」

 男は立ち上がると、仁の顔を見向きもせずに、そのまま人ごみの中へと走って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ