鬼ごっこしようよ。その2
ガキはレンから素早く離れると、滑り台の方に逃げて行った。レンは慌ててその後を追う。
(あのガキ、本当に能力者なのか?)
レンが滑り台に到達した頃には、ガキはかなり離れた位置にまで逃げ延びていた。
「速い」
ガキは壁際に追い詰めようとしても捕まらず、そもそも、彼の周囲1メートル以内に入ることすらできなかった。
「はあ、はあ」
「辛そうですね。休んだらどうですか?」
「どう見ても、ガキの脚力じゃない。どんなイカサマを使ったんだ?」
レンの一言に、ガキの表情が固くなった。緊張ではなく、どうやら怒っているようだった。
「いい加減にしてくださいよ。マジでムカつくな。自分がイカサマするような人間だからって、それを他人もしてると考える。寂しい人ですね。僕はこれでも勝負師だ。能力についても全て話したし、使うのは、ここの遊具と己の肉体だけだ」
ガキはそう言うと、わざと砂を蹴り上げて、レンから距離を取った。
「あのガキ、自分の能力に誇りを持っているタイプか」
「はっきり言いますよ。あなたじゃ僕には追い付けない。鬼ごっこは子供の遊びじゃない。精神と肉体、そして知力のぶつかり合いなんです。全てが上回った者が勝つ」
ガキは滑り台の上からズボンとパンツを脱いで、尻を突き出すと、それを手で叩いて挑発して来た。
「ここまでおいで~」
「偉そうなこと言ったくせに、やっぱりただの子供じゃないか」
レンは溜息を吐くと、付き合ってられないとばかりに、公園の出口へと歩いて行った。背後でガキが何かを喚いていたが、全て無視した。
「悪いけど。帰らせてもらうから」
レンは公園の出口、つまりレンガ造りの歩道に右足を出したが、何故か右足はレンガの道路を踏むことはなく、消しゴムで消したかのように、その部分だけ消えてしまった。
「うわあああ」
驚いたレンは、思わず右足を引込めた。すると、消えていた部分が元に戻り、傷一つ付いていなかった。
「言ったでしょ。僕の能力にあなたは閉じ込められているんですよ。早く捕まえないと、マジで死にますよ」
「どうなってるんだ・・・・」
レンはガキの方を振り返った。ガキはレンから2メートルほどの位置にまで近づいて来ていた。
「お前、背が高くなってないか?」
ガキの身長はレンよりも低かったはずだが、いつの間にか、レンよりも高くなっているように見えた。
「僕の能力はさっき説明した通りです。背が高く見えるというのは錯覚ですよ。あなたが僕を恐れているから、僕のことが大きく見えているんじゃないですか。あなたの精神よりも僕の精神の方が上だということですかね」
「いい気になるなこの・・・・」
「じゃあ、来れば良いじゃないですか。最も、あなたのことだから、僕を油断させようとするでしょうけど」
レンは足元の砂をガキの眼に向かって蹴り上げると、そのまま両手でガキに向かって突っ込んで行った。
「痛、やっぱりね。砂で視界を塞いでから来る。あなたらしい作戦です」
「けっ、何か嫌になって来たな。このゲームを続ければ続けるほど、自分が情けない人間であることを認めるみたいで、凄くつまらない。やーめた」
レンはそう言うと、ガキを追いかけるのを止めて、滑り台の下の影の中に入り、砂の上に肘を突いて、ゴロリと横になった。