没落への道
「ぬううう」
エクスダスの皇帝は手紙の内容を見て、怯えているようだった。そこに、彼の忠臣であるクルスがやって来た。
「陛下、如何なされましたか?」
「は、早く逃げなければ。亡命の準備をせい」
「落ち着いて下さい。今、気付け薬を持って来ます。手紙には何と書かれていたのですか?」
「ほれ、読んでみよ」
クルスら渡された手紙に目を通した。そこにはこう書かれていた。
「拝啓、皇帝殿は如何お過ごしでしょうか。もうじき、我々の軍があなたの城へと強襲することでしょう。ここで提案ですが、あなたの首を私に献上して下されば、我々は軍を引いて、これまで通りの平和な関係を続けて行きたいと思います
クルスは手紙をグシャグシャに丸めると、そのまま乱暴にポケットに突っ込んだ。明らかに馬鹿にしている。しかし、仮にディタールの侵攻を許せば、無実の民衆や兵士達が命を落とすこととなる。
「陛下、あなたには私がいます。どうぞ御安心を」
クルスは皇帝を宥めたが、心の中では別の感情が生まれていた。今の皇帝は先代とは比べものにならない暗愚である。この先、この皇帝では、エクスダスに未来は無いだろう。民衆には重い税を負担させ、自分は贅沢三昧の毎日、それが一国の主と言えるのか、少なくともクルスは認めたくなかった。
(仮にだ。もし奴らの言い分が本当ならば、それに従う方がこの国のためだ。私が忠誠を誓ったのは、皇帝にではない。この国土と民衆に対してだ。奴らが真実かどうか、この眼で見定めるとしよう)
クルスは皇帝に黙って、一人馬を走らせた。既にディタールの軍勢はエクスダスの城へと目前にまで到達していた。
「リン、この前は助かった」
ジェイは斧を片手に馬の後ろを歩くリンに微笑みかけた。すると、リンは決まり悪そうに顔を赤らめ舌打ちをした。
「ちぇ、恥ずかしいから止めてよ」
「おい、敵だ。敵が来たぞ」
センはこちらに向かって単騎で迫る一人の男を発見した。
「待てセン、様子がおかしいぞ」
リオンは馬を走らせ、センを追い抜くと、前方から迫る一騎の男の前で停まった。
「配下も連れずに戦うのか?」
リオンは厳格そうな外見の男にそう言った。男は眉をピクッと動かすと、突然、馬を降りて剣を腰から引き抜いて見せた。
「図々しいのは承知でお願いがある。どうか、このクルスと一騎討ちをして頂きたい。相手はリオン王で頼む」
クルスの無茶な提案に、ディタールの者全員の顔が凍りついた。
「ふざけるな。王が何故貴様と一騎討ちしなければならんのだ。相手なら俺が務めてやる。来い」
センは両手に装備した剣をクルスに向けた。
「雑魚は黙っておれ」
クルスは一喝すると、自分の剣を天高く掲げた。空に暗雲が立ち込めて、雷が刃に落ちた。
「我が先祖より伝わる秘技を見せてやる」
クルスの剣は雷を帯びていた。それを大地に向かって突き刺すと、刃先の雷が地面を伝わり、センの体に炸裂した。
「ぐおおおお」
センは全身を黒く焦がし、両手の剣を手放した。そして、地面にうつ伏せに倒れた。