マックスお前もか
マックスは頭に無数の瘤を作ったまま床に倒れていた。近くには先端がボロボロになった箒が立て掛けてある。お粥を食べ終えたレンは、気持ち良さそうに寝息を立てていた。エスティーは眠っているレンの頬を指で軽く突いた。
「可愛いわ。本当に。レンちゃんを傷付ける人は誰であろうと許さないわ」
「エスティーさん。だから誤解ですって。俺は頼まれて体を拭こうとしただけで、やましい気持ちはありますが、別にどうしようとか、そういうつもりはありません。所謂思春期独特の健康的な欲求です」
「言ったでしょ。早く帰りなさいって」
「待ってくれ。許してくれるまで俺は帰リたくない」
マックスとエスティーは無言で睨み合っていた。しかし彼女の顔があまりにも険しいので、マックスは諦めてしまった。
「分かりましたよ。俺は帰ります」
マックスは学校のバッグを肩に掛けて、部屋を出ると、そのままコロンコロンから出て行った。
外は完全に陽が落ちており、各家の前には松明の火が掲げられていた。
「マックス・・・・」
背後から女性のものと思われる不気味な声が聞こえて来た。
「おいおい、誰だよ」
マックスは平静を装って返事したが、内心はかなりビビっていた。というのも、エスティーがナイフを片手に自分を襲いに来るのでは無いかと、外に出てからずっと考えていたからだ。
「僕の名はターニア。君達よりも一応一つ年上なんだけど、まあ関係無いね」
「先輩、何の用っすか?」
「コロンコロンってどっちに行けば良いんだっけかな。僕、隣町に住んでいるから、グリーンマイルについて良く知らないんだ」
「へえ、でももう店仕舞いですよ。今から言ったってね」
マックスはそれだけ告げると、クルリとターニアから背を向けて歩き始めた。ターニアは小さく舌打ちをすると、丁度、自分の近くにあったゴミ箱のカゴに手を向けた。
「ピンポイントショット」
ゴミ箱が一瞬にしてマックスの頭上に出現した。
「な、危ねえ」
マックスはゴミ箱の存在に気が付くと、それの前に手を向けた。
「ビートダウン」
マックスの掌から炎弾が放たれて、ゴミ箱を一瞬にして消しカスに変えてしまった。
「う、嘘だろ・・・・?」
その現象に一番驚いたのはターニアである。マックスが超能力者であるなど、疑いすらしなかったからだ。恐らく、仁などの、彼の周りにいる人間達もその事実を知らないだろう。
「超能力を使えたの?」
「超能力って言うのか。俺が小さい頃からあった力だ。周りは誰も持っていない。親すら知らない秘密だったんだが、咄嗟に使っちまったぜ」
「こいつは驚いたよ。生き別れの兄弟と再会したような衝撃だ」
ターニアは懐の鉄棒を3本ばかり撫でると、それをマックスの頭上に出現させた。
「テメーも芸が無いな」
マックスは鼻で笑った。そして今度は全身に力を込めて体から高熱を放出した。あまりの熱さに、レンガ作りのオシャレな床が、全て溶けてしまった。
「燃えな」
マックスに刺さるはずだった鉄棒が、彼の体に触れるよりも速く溶けてしまった。
「もしかしてよ。俺とお前以外にもコレを持っている奴っているのか?」
「いるも何も、お前の身近にいる奴らはほとんど持っているよ。例えばフローラやレンとかね」
「レンも持っているのか・・・・」
マックスは心なしか嬉しそうだった。鼻の下を伸ばしてにやけていたのだ。この状況で笑えるのも大した神経だが、それよりも彼の笑った動機の方が、ターニアは気になっていた。
「実はよ。お前に話してもしょうがねえけど。レンに惚れちまったんだ。マジで好きなんだぜ。ルックスとか越えて、彼女の精神に惚れてるんだ。男勝りと言うか、可愛いけど女々しく無い部分が特にな」
「お前のことなんか、僕には興味が無いんだよ」
ターニアは地面に落ちている石を拾おうと手を伸ばした。
「おおっと。そうはさせないぜ」
マックスは拳を握りしめると、ターニアの目の前にまで走って行った。そして彼女が顔を上げるよりも速く、彼女の顔面に熱を帯びた拳を叩き付けた。
「がは・・・・」
「ほらよ」
顔を殴られてよろけるターニアの顔に、今度は強烈な回し蹴りを喰らわせた。
「がはあああああ」
ターニアは顔の皮膚をドロドロに溶かしながら、別のゴミ箱のカゴに頭から突っ込んで行った。
「ふううう。俺以外に力を持った奴がいたなんてな。これは面白くなって来たぜ」
ビートダウン。それは熱と炎を自在に操る能力である。