プリンスの反撃
レンは剣を握り締めて、ヒョウに向かって斬り掛かった。
「当たるかよ」
ヒョウは眼前の空気を凍らせて壁を作ると、剣は氷に弾かれて欠けてしまった。
「くっそ」
ヒョウは氷の壁を殴った。すると、壁が粉々に砕け、氷の破片が、レンの右肩に当たり、その肉を軽く削り取った。
「痛、くうう」
レンは背後の階段に足を掛けると、そのまま、ヒョウの方を向いたまま、階段を一段だけ上った。上の階にはエスティーがいる。なるべく一階で決着を着けたかったが。背に腹は代えられない。
「おい、まさか逃げるじゃないよな。自分が助かりたいからってよ。関係無い人を巻き込んじゃダメだぜ」
「はあ。エスティーさんには申し訳ないけど、どうせお前は追って来れない」
レンは階段を一気に駆け上がると、階段の途中に外壁を作ってバリケードとした。
(階段を一段、プリンスで外壁に作り変えた。これで追って来れないはず
レンは作った壁を背に一息付いた。正面には半開きのドアがある。エスティーはきっとその中にいるのだろう。
レンはふと、壁に耳を側立ててみると、反対側から壁を殴る音が聞こえて来た。
「勘弁してよ」
レンは無意識に壁から飛び退くと、半開きのドアの中に入り、気休めにドアをノックした。
入った先は脱衣場で、エスティーの着ていた衣服やエプロンが畳まれていた。その奥には、エスティーと思わしき、線の細い体のシルエットが、ガラスの扉に映っていた。
最悪とはこういう時に使う言葉なのだろう。レンは、そっとエスティーの服を持ち上げると、それを自分の鼻に押し当てた。特に意味は無い。己の本能に従っただけの話である。
「レンちゃん。そこにいるの?」
風呂場からエスティーの声が聞こえて来る。レンはエスティーの服を元の場所に畳んで戻すと、裏返った声で返事をした。
「はい」
「汗掻いてるでしょ。入って良いわよ」
「は、入るって、エスティーさんが…」
「何よ。照れてるのかしら。女同士で」
エスティーの言葉にレンは我に帰った。そうだ。今は女なのだから、一緒に風呂に入ることは普通なのだ。レンの脳内に如何わしい妄想が浮かんだ。
レンがもたついていると、ドアの奥から何かが砕ける音が聞こえて来た。
「きゃ、な、何?」
驚き慌てるエスティー。
「エスティーさん。中にいて」
レンは脱衣場から出ると、壁を壊して入って来たヒョウと、向かい合った。
「アイススマッシャーで凍らせたら、簡単に壊れたぜ」
「にしては、遅かったね」
レンはニヤリと笑うと、急にヒョウの前で上着を脱いで、さらに服まで脱ぎ出した。
「テ、テメー何してんだ?」
「風呂に入るんだよ。服来て風呂に入る間抜けはいないだろ?」
レンは自分の服を掴んで、それを別の風呂敷に作り変えた。
「ほら、プレゼントだ」
レンは布をヒョウの顔に被せて、彼を階段から突き落とした。