流麗なるもの
「皆、無事か?」
照りつける太陽の光が、リオンの視界を遮った。グロス城に備え付けられた大砲は、既に青い光を吸収し、第二波を撃つ準備をしていた。
「リオン様」
リリィが泥だらけの体に鞭打って、リオンの元に駆け付けた。彼女も落馬したようで、体には至るところに擦った痕があった。
「早く、ここから逃げるんだ。あの大砲はマズイ」
傷だらけの二人の前を一人の少女が駆け抜けて行った。
「ここはあたしに任せな」
それはホムンクルスの少女リンだった。彼女は一人だけ無傷で、手には大きな斧が握り、大砲に向かって走った。
「何故、彼女は無傷なんだろう」
「きっと、彼女がホムンクルスだからです。ホムンクルスは魔法によって造られた存在、故に魔法には耐性かあるのです。つまりあの大砲から発射されているのは、魔力の塊」
リンには、赤魔賊に拾われた以前の経験が無かった。ホムンクルスである彼女を生み出したのは誰なのか、男か女か、どんな声なのか、どんな顔なのかも分からなかった。感情を持たない人形であるリンに、楽しいことや悲しいことを教えてくれたのは、皮肉にも社会の底辺である盗賊であった。
「目的があるのは楽しい」
リンは誰かのためになることで、自分の存在意義を見出だしていた。赤魔賊から離れた今、彼女の生きる目的は、自分を拾ってくれた人達を守ることだった。
「将軍、可愛い女の子が斧持って走って来ます」
兵士は震え声で叫んだ。
「まるで鴨かネギ背負ってやって来たみたいな言い方だな。構わん。撃て」
既に十分な魔力を蓄えた大砲から、青い光線が発射された。避ける必要はない。リンはそれを真っ向から受けた。
「痛みはないよ。あたしにはね」
青い光が、リンの肌を僅かに削った。削られた皮膚の部分は青く光っており、所々ひび割れていたが、数秒後には皮膚に戻っていた。
「これで終わり」
リンは斧を振り上げると、巨大な竜巻を発生させた。そして竜巻の力で大砲を破壊してしまった。
「馬鹿な…」
グロス城の要とされた大砲が機能を停止した。
「僕らも後に続こう」
リオンが号令すると、皆一丸となってグロス城の内部へと侵入して行った。要を失った要塞はいとも簡単に落ちた。そして、城の中から軍服を着た、大将と思わしき女性が、リオンの元に引っ張り出された。
「くっ、離せ」
女性は美しい容貌を歪ませ、小犬のように吠えていた。
「君、名前は?」
「ふん、猿に名乗る名前はないわ」
「そう…」
リオンは視線を下に落とした。それを見た女軍人は何を思ったのか、急に慌て始めた。
「ま、まさか。私を犯すつもりか。皆の前で辱しめて、エッチなことをするのか?」
「そんなことはしないが、これをエクスダスの皇帝に渡して欲しい」
リオンは手紙を女軍人に渡すと、彼女を解放した。果たして手紙の内容とは。彼の部下も気になっていたが、リオンは黙して語らなかった。