レンとフローラ
保健室。仁と、人形から解放されたレンとフローラは、ベッドの上に縛られているビールスの顔を足で踏みつけて遊んでいた。
「テメー、さっきはよくもやってくれたな。おまけに人の顔を、臭え舌で舐めやがって」
「痛えよ。許してくれ。ほんの出来心だったんだ」
怒りの収まらないレンの顔を、フローラが突然、両手で優しく包み込んだ。
「レンちゃん。私が綺麗にしたあげる」
「え、ちょ。ん…」
フローラは突然、レンの唇に自分の唇をそっと押し当てた。戸惑うレンの顔を見て、フローラはニコッと微笑んだ。
「これで大丈夫だよ」
「あ、ありかと」
「ところで、グリーンマイルには三人の超能力者がいるらしいが、テメーもその一人だな?」
仁はベッドに縛られているビールスの顎を持ち上げて、強引に上を向かせた。
「ああ、そうだよ。痛てて」
「目的は何だ。何故、こんなことをする」
「意味は無い。ただ、楽しいからよ。能力を使ってつまらない日常を面白くしたい。テロとか革命だなんて、大それたことには興味ねぇよ。少なくとも、俺達はな」
仁は手帳を取り出すと、ビールスの寝ているベッドの端に腰掛けた。
「残りの二人の能力を教えろ」
「そ、それは分からねぇ」
「拷問が必要か?」
「待て、本当に知らないんだ。お互いに好き放題やるだけだからな、行動だってともにしない。興味も無いんだ」
「嘘は言ってないみたいだな」
仁は立ち上がると、レンとフローラの方を向いて喋り始めた。
「二人を巻き込みたくは無いが、すでにこうなっちまったものは仕方ねぇ。良いか、超能力には大きく分けて三種類のタイプがある。一つは起動型だ。これは自分の意思で自由に発動したり解除できる能力。そして、自動型が、コイツのドールみたいに、ある行動がスイッチになって、自動的に発動するタイプの能力だ。そして最後が永続型。これは、寝てようが起きてようが、本人の意思に関係無く、常に発動しているタイプだ。本人の意思に関係無くという点では、自動型と永続型は共通しているがな」
「何故、そんなことを?」
「用心しな。自動型みたいに、知らないうちに攻撃を受けている可能性もあるからよ。慎重に行動するんだ。俺達は狙われてるぜ」
仁はそれだけ言い残すと、保健室を去って行った。
「だってさ。レンちゃん」
「用心はするけどさ。今日の放課後。カフェのお客様から、デートの誘いが来てて、それも店のサービスだから断れないんだよ。憂鬱だなぁ」