アイアンメイデンの洗礼
人形になったレンを掴んで、ビールスはニヤニヤと笑っていた。それを正面にいるフローラが対峙する形で睨み付けている。休み時間が終わり、朝のホームルームが始まった。生徒達は、二人を除いて、全員教室の中にいた。
「可愛いだろ。この人形。さっきまで偉そうにしてたくせに、こんなに綺麗だなんて、反則だろ」
ビールスはレンの頬を舌で舐めた。そして、舌先を器用に動かして、彼女の唇をなぞっていた。人形となったレンは、無表情のまま、テラテラと唾液で光っている。
「最低」
フローラは吐き捨てるように言った。それがビールスの策略とも知らずに。
「俺を気持ち悪いと思ったろ。それで良い。そして、俺の素顔を見せてやろう」
ビールスは眼鏡を外して、クシで髪を整えた。何と彼はイケメンだった。
「俺の能力、ドールは、相手に気持ち悪いとか、不快とかいう感情を抱かせれば勝ちなんだ。あんたが俺を嫌いになってくれれば、ドールは発動する」
フローラの背後には黒い人影が出現している。そして、大きく口を開けて、彼女の頭に被り付こうとした。
「不思議な力だね。でも、私もそれと似た力があるんだ」
フローラは心の中で、アイアンメイデンを呼んだ。同時に緑色の水晶のような物体が、ビールスの頭上に現れた。
「遅いぜ」
フローラの体がドールの中に呑み込まれた。同時にアイアンメイデンが、ビールスの後頭部目掛けて、機関銃の如く、弾丸を連続で発射した。
「うぎゃあああ」
ビールスの体が大きく吹き飛んだ。そして、血塗れになりながら、廊下の上を這っていた。
「ああ、クソ。保健室に行かねえと。血が止まらねえ。人形を楽しむのは後だ」
ビールスは保健室に辿り着くと、のあ入り口の扉を手で叩こうとした。しかし、その寸前で、突然背後から現れた仁に、服の襟を掴まれた。
「ひ、ひい」
「おい、昼休みは終わったぜ。速く教室に戻りな」
「せ、先生。良く見てください。階段から落ちて怪我しちまってる。保健室で手当てしないと
「おお、本当だな。辛そうだから開けてやるよ」
仁は保健室の扉を開けてやると、そのまま階段を上ろうとした。
「た、助かったぜ」
「待ちな」
階段を上ったはずの仁が戻って来て、ビールスの真ん前に立ちはだかった。
「まだ、何か?」
「階段から落ちたと言っていたが、どう見てもその傷、何かに撃たれたとしか思えないんだよな。穴だらけだしよ」
ビールスは思わず唾を呑んだ。仁の眼がビールスへの疑いの念で、どんどん鋭くなっていた。
「そ、そうだ撃たれたんだ」
「ほう、あれにか?」
仁は天井の周りを旋回している、緑色の衛星を指して言った。
「そ、そうだ。アレにやられたんです」
ビールスの発言に、仁の表情が一気に固くなった。
「そうかい。じゃあテメーは黒だな。アレはフローラの放った能力で、超能力者以外には見えないんだ。テメー言ったよな?」
「ひ、ひい」
ビールスの顔面に仁の強烈な蹴りが入った。
「ぷぎゃああああ」
ビールスは勢い良く吹き飛ぶと、窓ガラスに顔をぶつけていた。