メイドのレン
学校帰り、レンとフローラはグリーンマイル唯一のカフェである、コロンコロンに来ていた。レンは生活費をここでのバイトで稼ぐと決めていたので、早速エスティーに言われて、制服に着替えさせられていた。
「なあ、これおかしくないか?」
エスティーは普段着だというのに、何故かレンだけ白と黒を基調とした、よくあるメイド服だった。何故ただのカフェでメイドなのか、その点に関して、エスティーは黙して語らない。ただ、客からの評判は良く、中にはレン目当てに店に来る者もいた。最近では、カフェに7日以上訪れると、レンと一緒にじゃんけんなどを遊べるサービスが付く他、さらに通い詰めると、今度はレンとの一日デート券が貰えるという。
「ご主人様。今日も来てくれてありがと・・・・」
いつもの客にレンがニコッと微笑んだ。そして席に案内すると、客が顔を赤らめながら、コーヒーを注文した。
「はい、コーヒーですね。ミルクはどうしますか?」
「ふ、二つで」
「了解しました」
レンはミルクを二つ持って来ると、いつもの呪文とともに、コーヒーの中にそれを入れた。
「おいしくなーれ。おいしくなーれ」
(オェェェェ。やべ、自分でやってて吐きそうだ)
ここまで来るとやけくそである。人は金のためなら何でもできるというのはあながちウソでは無い。最もバイト中は、メイドに成り切っているので、意外にそんなり受け入れることができるのも不思議だ。
その日の夜、後1時間で店仕舞いという時に、一人の客がコロンコロンを訪れた。
「いらっしゃ・・・・」
言い掛けたところで、レンの顔が硬直した。そこにいたのは仁だったからだ。彼は基本的には寡黙で、余計なことは喋らない性格だったが、その顔が明らかに驚きに満ち溢れていた。寧ろ、言葉を交わさない分だけ、レンにとっては気まずかっただろう。
「随分と楽しそうだな」
「いえ、全然・・・・」
「一つ聞きたいことがあってな。うちのクラスのフローラが超能力に目覚めたらしいな。エヌを飲んで」
「ああ、そうみたいですね。ただ、それを飲ませて来た連中が死んじまったんで、オレも分かりません」
「そうか。実は敵の正体が分かった。情報屋から聞くところによると、最近、帽子を被った、丁度お前ぐらいの年代の女が、町の不良達にエヌを渡しているらしい。その中で、現在、帽子の奴を含めて3人の超能力者がグリーンマイル内にいるらしい。気を付けろよ」
レンは話を聞きながらコーヒーを持って、それを仁の座る席のテーブルに置いた。
「おい、注文してねーぜ」
「オレからのサービスです」
「おいおい、教え子に奢ってもらう奴がいるか。払うよ」
「ミルクは?」
「ブラックで良い」
仁はコーヒーを一口飲むと、突然、窓の方を見て怒鳴った。
「おい、そこにいるのは誰だ?」
仁の声に窓の外にいる何者かが、店から逃げて行った。
「ちっ、最悪だぜ。聞かれちまったかも知れん。ただの不良かと思ったが、今のは帽子の奴だったかもな。だとしたらヤバいぜ」
「闘うんですか?」
「まあな、奴を含めて三人の超能力者がいるんだ。それに奴らはまだ子供。遊び半分で人の命を奪いかねない連中だ」