怒りのレン
レンとフローラは、日光も届かないようなコンクリートの部屋に拉致されると、体をロープで縛られた状態で床の上に寝かされていた。
「けけけ、お前らどっちから喰っちまうか?」
一人の見るからに下品そうな髭面の男が、レンとフローラの顔を交互に見比べながら嫌らしい笑みを浮かべていた。
「この、下衆野郎」
レンは男の顔を睨み付けていた。
「起きていたのか。可愛い顔して随分な言葉を吐くじゃねえか。なあ、お前ら」
「こういう生意気な女を調教するのも良いよなぁ~」
「うへへへ、そうだな。まずはこいつから楽しむか」
下品な男達は、三人掛かりで、まず二人がレンの両腕を後ろから持ち上げた。そして最後の一人がレンのスカートに手を掛けた。
「や、止めろ」
レンは歯をガチガチと鳴らしていた。この下卑た連中が何を分にしようというのか。考えただけでも吐き気がする。
「へへへ、脱ぎ脱ぎしましょーね」
「嫌だ。嫌・・・・」
「こいつ、いきなりしおらしくなったぜ。大丈夫だよ。すぐに気持ち良くなって、何も分からなくなっちまうから」
「や、止めろおおおお」
レンの叫び声で、隣で眠っていたフローラが目を覚ました。彼女は、身体に反動を付けて男の一人に体当たりした。
「うお、テ、テメー」
突き飛ばされた男は、拳を振り上げると、フローラの頬を殴ろうとした。しかし、それを一人のリーダー格らしき男が止めた。
「止めろテツ。面白いことを思いついた」
テツと呼ばれた男は、銀色の髪をした男に言われると、怯えたようにすぐに拳を引込めた。この男に逆らうのがよほど怖いようだった。
「気に入ったぜお前ら。ご褒美に面白い物をやるよ」
銀髪の男はポケットから、赤いカプセルを一つ取り出した。
「一昨日、変な女からもらった薬だ。何の薬かは分からんが、すげえ、気持ち良くなるらしいぜ」
銀髪の男はフローラの顎を掴んで、無理矢理上を向かせた。
「あぐう・・・・」
「ほら、ググッと飲め」
「おい、何してんだ。フローラを放せ」
レンは必死に暴れて喰い止めようとしたが、縛られていては仕方が無い。簡単に他の男達によって、組み伏せられてしまった。
「うう・・・・」
フローラの喉がコクンと鳴った。その瞬間、彼女の体が痙攣したようにヒクヒクと小刻みに揺れ始めた。雷に撃たれような衝撃が彼女の体を駆け巡った。
「おい、何だこれ」
しばらくしてフローラの体の痙攣が収まった。流石の不良達も、彼女が痙攣した時には肝を冷やしたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「脅かしやがってよ」
不良の一人が、フローラに近付こうとしたその時だった。突然、彼の顔が何かに狙撃されたかのように、穴だらけになり、その場に倒れた。
「ひいいいい」
不良達は恐怖に慄くと、顔面を狙撃された仲間の顔を見た。目玉は飛び出しており、舌が突き出ていた。その異様な死に様に、誰もが顔を青くしていた。しかし彼らに降りかかる不幸はそれだけで終わらなかった。
「がはあああああ」
今度は別の不良の体に何発もの弾丸が撃ち込まれた。何かが建物の中に忍び込んでいる。しかし、何処をどう見ても、コンクリートの部屋の中には、誰かが入れる余裕など無い。何かがいる。そう思った矢先、レンの眼だけがそれを捉えていた。
「何だ・・・・あれ・・・・」
天井の隅に、緑色のクリスタルがいくつも重なってできた結晶のような、人工衛星のような物体がフワフワと浮いていた。そして中心部には黒い穴が開いており、ここから弾丸を発射しているようだった。
「ひああああ」
不良達には衛星が見えていないらしく、次々と衛星から発射される弾丸を浴びて、床の上に沈んで行った。
「はあ・・・・はあ・・・・」
衛星は不良達を全員狙撃し終えると、今度はレンの方に近付いて来た。
(こいつ、何を目印に動いているんだ)
レンは立ち上がろうとしたが、縄で縛られているため、上手くいかず、足を滑らせてしまった。その瞬間、衛生の穴から弾丸が発射され、レンの足元のコンクリートの床に小さな穴を開けた。
(こいつ、音に反応しているんだ。そして、音が大きい方を優先的に攻撃している)
レンは何かを閃いたらしく、わざと足を滑らせて転ぶと、衛生の穴に、後ろ手に縛られている縄を向けた。案の定、弾丸が縄を狙撃し、レンは自由になった。
「フローラ」
レンはフローラの元に駆け寄ると、フローラは眼が半開きの状態で、レンに笑顔を向けていた。
「良かった無事で・・・・」
後になって知ったことだが、衛生の正体はフローラの超能力だった。彼女が服用した薬は、レンが朝、仁から聞かされていたエヌであり、彼女は自身の能力を鉄の処女と名付けた。