マジでクレイジーな奴
廊下に呼び出された仁は、手に透明なクリアファイルを持っていた。レンがそれに興味を示していると、彼はそれをファイルから出して、レンに手渡した。
「世界が平和になったってのに、人の心には闇が巣食うらしいな。こいつを見ろ」
仁はレンに渡した紙の上部を指した。そこには人の名前が書かれていた。どうやら何かの名簿のようで、細かい字でびっしりと埋まっていた。
「これは・・・・?」
「最近、この界隈で、「エヌ」と呼ばれる非合法薬物が横行している。それもグリーンマイルを中心にな。何故、こんな田舎町でと思っていたが、そんなことは関係ねぇ。これからする話は、お前にとって、全く無関係ではないからな」
仁は眼を細めると、廊下の窓を向いて、静かに話し始めた。
「エヌは麻薬の類では無い。つまり、服用したからといって、体に害をもたらしたり、依存性があるわけでは無いのだ。だが、この薬は、人の脳に直接作用し、脳に眠っているある才能を目覚めさせる効果がある。お前の父親が言っていた超能力だ。普遍化された定型を好む魔道士達が聞いたら、ぶん殴られそうな話だが、超能力はマジで存在する。この薬を使って、この町を中心に超能力者を増やしている輩がいる」
「そんな悪い奴が。ここに・・・・?」
「信じられないだろうな。この町の人間達は変人も多いが、基本的には善人だ。しかし、この町の何処かにいるんだ。イカれた野郎がな。このエヌの原材料は分からないが、その薬を造った奴は、お前の父ギース・ブラッドの仲間かも知れない」
仁は名簿を取り上げると、それをファイルに戻した。
「この名簿は、ここ1か月の行方不明者の数だ。マジでクレイジーな奴だぜ。子供から高齢者まで、一体何人の人間を殺せば気が済むんだ」
「ちょっと待て、行方不明者だろ?」
「まあな。しかし生きているかどうかの保証は無い。十分気を付けろ。お前も能力を持っている上に、ギースの子供でもある。奴らの考えは分からないが、きっとお前も狙われるぜ」
仁はそれだけ言うと、そのまま職員室に行ってしまった。いきなり気を付けろと言われても、レンには状況がさっぱりと読めない。自分の父親がどんな顔をしていたのかも知らないのだから。
「レンちゃーん」
突然、レンの名前を呼びながら、一人の女子が走って来た。
「君は?」
「私はフローラ。えへへ、あなたの席の斜め前に座っているんだけど、気付かなかった?」
「全然・・・・」
「へえ。じゃあこれでお知り合いだね」
フローラはレンの手を強引に握ると、今度はレンの胸元をじっと見つめていた。
「せい」
「ひゃあん」
フローラーはレンの胸を思い切り右手で鷲し掴みにした。
(嘘だろ。変な声出た・・・・)
レンは自分の声にショックを受けていたが、フローラーはそのまま胸を右手で揉み始めた。
「ちょっと・・・・」
「やっぱりね。なんで下着着けてないの?」
「そ、それは。ああん。ちょっとくすぐったい」
「下着は着けなきゃダメだよ。帰りに一緒にお店に行こう。そこで似合うの選んであげるから」
「良いよ。余計なお世話だし」
「良くないってば。歩くたびにおっぱいは揺れちゃうものなの。それを見た馬鹿な男子が、それで一人でヨロシクやっていても良いの?」
「そ、それは少し引く・・・・」
「でしょう。だから。私と一緒に来なさい」
フローラはレンの右腕を掴んで、強引に教室の中に引っ張って行った。