アイドルとなったレン
ガラガラッと教室の扉が開かれて、Dクラスの担任である。仁が入って来た。彼は黒板に白のチョークで、レン・タナカと書くと、廊下にいる転校生ことレンを呼んだ。
「・・・・」
レンは教室に入ると、自分の名前が書かれている横に立って、教室中を見渡した。何故かむすっとしていて、眼つきも悪かった。彼女は明らかに怒っていたのだ。それはクラスに対してでは無い。仁に対してだ。別れを匂わせておいて、この扱いは酷いと、レンは思っていた。
「今日から、うちのクラスの一員となるレン・タナカさんだ。まあ、あれだ。仲良くするように」
レンの姿を見て、クラス内はガヤガヤとざわめいていた。もちろん、彼女についての話題でだ。
「おい、やばいぜ。予想以上だ」
「ああ、マジに可愛いな。てか、何で怒ってんの?」
「いやぁ、そこも堪らないぜ。ツンとした部分と可愛らしさのコラボって奴ですかね・・・・」
「ミーシャ先輩とは違ったタイプだが、これは人気が出るぜ。俺の女子データーブックに追加しておかないと」
男子達はレンの方を見てニヤニヤとしていた。これから一緒に勉強する相手だからではない。もちろん、彼女が美しかったからだ。男子の中にも色々おり、少しモテる男子であれば、彼女をいかにして口説くか考えていたし、そこまでは行かなくても、何とかして隣の席にしたい。仲良くしたいと、鼻息を荒くしていたのである。もちろん、そんな輩なので、他の女子に気を使うなど思い付きもしなかった。
「え~と。どこに座るか」
仁は空いている席を眼で探していると、クラスのムードメーカ、マックスが突然立ち上がり、隣の空席の椅子を引いた。
「どうぞ。ここが空いています」
マックスの一言に、男子達の鋭い視線が彼に集中した。しかし、元々不良である彼のことなので、そんな視線を恐れることは無く、寧ろ睨み返すほどであった。
「オレ、あそこで良いです」
レンはマックスの隣の空席に鞄を置くと、椅子にドサッと音を立てて座った。
「へへへ、どうぞ」
マックスは意地悪そうな眼で、羨望の眼差しを向ける男子達を笑った。マックスの真ん前の席に座るフローラは、その様子を退屈そうに見ていた。
ホームルームと一時間目の間には少しの休み時間がある。クラスの男子達はレンの机を取り囲んで、早速、新たなるクラスのアイドルへの質問タイムが始まった。
「あ、あのさ。好きな食べ物って何かな?」
色の白い気弱そうな男子がレンに質問した。
「果物は何でも好きかな~」
元々目立つのは好きでは無いが、冷たく突き放すわけにも行かず、レンは仕方無く、男子達の相手をしていた。
「じゃ、じゃあさ。次は俺の番だ。ぶっちゃけて聞くけど。この中で一番誰が好みのタイプ?」
ある男子の一言でクラス中に緊張が走った。レンはフッと鼻で笑うと、男子達の顔を軽く一瞥した。はっきり言って、自分が女だとしても。この中から彼氏を選ぼうだなんて思わない。それにタチの悪いことに、レン自身は自分の魅力を知っている。自分がいわゆる大多数の男が好きそうなルックスをしていることも、すでに学習済みなのだ。だから、意地悪そうに小さく笑うと、男子達に向かって静かにこう告げた。
「そうだな。例えば、肩とか揉んでくれる男子とかなら好きかもね」
「よし、俺が揉むぜ」
レンの背後に立っていた男子が、レンの両肩を手で揉み始めた。さらにお茶が飲みたいと言えば、今度は他の男子が急いで給湯室に向かった。
(女も悪くないかもな)
男子を駒使いにするのも悪くない。サドに目覚めかけたレンの頭を冷やすように、廊下から仁が、レンに向けて、自分に付いて来るように合図をした。
「ちっ・・・・」
レンは舌打ちすると、男子達の渦を掻き分けて、そのまま廊下に出た。